ふたりだけの夜
 薬缶の激しく鳴る音で目が覚めた。
「あ⋯⋯ごめん。起こすのも悪いから、勝手にキッチン使わせてもらったけど、結局のところ起こしちゃったな。おはよう」
 何事もなかったような顔で尚は言う。
 部屋中、香ばしい匂いがする。
「簡単にだけど、朝食作ったよ。食べるだろ?」
 私は頷き、のろのろとテーブルに向かう。
 これじゃまるで、恋人同士みたいだ。
「尚、なんでメガネかけてるの?」
「昨夜、コンタクトを外したからだよ」
 尚がコンタクトを使っているということさえ、今まで知らなかった。メガネをかけた姿も初めて見る。
 そのとき、ふと私は我に返り、慌てて洗面所で、鏡に映る自分を見た。
 最悪だ⋯⋯。
 昨夜、泣き疲れて眠ってしまったから、酷く目が腫れている。
 なんて不細工な顔だろう。
 もう、既に見られてしまったが、恥ずかしくて仕方ない。
「どうした?」
 鏡の中に尚が映り込み、思わず顔を隠した。
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