憧れの御曹司と婚約しました。



 それから数週間、颯さんとの生活は少しずつ変わっていった。公の場では相変わらず完璧な社長夫人として振る舞い、【morita】のイベントやチャリティーパーティーに出席した。でも、家では、颯さんの仕事部屋で一緒にスケッチを見たり、もこまるの新作アイデアを出し合ったりする時間ができた。

 ある晩、颯さんが新しいもこまるのぬいぐるみの試作品を持って帰ってきた。ふわふわの白い毛に、ピンクのほっぺが特徴の「冬限定もこまる」だ。私はそれを手に取って、思わず頬ずりしてしまった。
「ねえ、颯さん。この子、めっちゃ可愛い! ほっぺのピンク、もっと濃くてもいいかも!」
「ほう、濃いピンクか。じゃあ、デザインチームに伝えてみるよ。君のセンス、いいから助かるよ」

 颯さんはそう言って笑いながら、私の髪を軽く撫でた。その仕草に、ドキッとしてしまった。結婚当初はビジネスライクな関係だと思っていたけど、こうやって一緒に過ごす時間が増えるにつれて、颯さんの意外な優しさやユーモアに心が揺れる瞬間が増えていた。

 でも、同時に小さな不安も芽生えていた。颯さんはもこまるを通じて私と繋がってくれているけど、彼の心の奥にあるものは何なのだろう? 社長としての責任感? それとも、私にもっと深い何かを感じてくれているのだろうか?
 そんなことを考えながら、私はスケッチブックに新しいもこまるのアイデアを書き込んだ。ハート型のしっぽをつけた「バレンタインもこまる」。颯さんがそれを見て、目を細めて言った。

「日和子、これ、いいな。君、ほんとにもこまるのこと分かってるよ」
 その言葉に、私は照れながらも心から嬉しかった。もこまるが、私と颯さんを繋ぐ架け橋になってくれている。そんな気がした。



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