一夜限りの契約妻──冷徹御曹司の独占愛は甘すぎて逃げられない
「……どうして“妻”なんですか?」

勇気を振り絞って問い返すと、聖さんはコーヒーカップを置き、低い声で答えた。

「理由は単純だ。父が進めている政略結婚を断るためだ。」

「政略結婚……」

思わずつぶやく。

「相手は由緒ある家柄の令嬢だ。父はすっかりその気になっている。だが、僕にはその気はない。いくら言葉で拒んでも、父は耳を貸さない。だったら、実際に妻を連れて行くしかないんだ。」

静かながらも揺るぎない声音。

彼の表情には冗談のかけらもなかった。

「妻、ですか……でも、私で説得できるんでしょうか。」

「大事なのは形式だ。彼女では弱い。恋人程度ならすぐに別れさせられる。だが、“妻”なら父も簡単には口を挟めない。」

冷徹に見えて合理的な考え方。

けれどその裏には、父の支配から逃れようとする切実な思いがあるように思えた。

胸がざわめく。

目の前に座る御曹司の頼み──それが一夜限りだとしても、私の人生を大きく変えてしまうに違いない。
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