一夜限りの契約妻──冷徹御曹司の独占愛は甘すぎて逃げられない
「思った以上にやるな。」

横から低くつぶやく声が聞こえ、私は驚いて聖さんを見上げた。

冷徹な表情を崩さないまま、その口元がわずかに緩んでいる。

けれど、次の瞬間──彼の目つきが鋭く変わった。

「真帆。次は心してかかれよ。」

「えっ……?」

戸惑って問い返す。

聖さんの視線を追うと、会場の向こうにひときわ強い存在感を放つ人物が立っていた。

白髪交じりの髪をきちんと撫でつけ、鋭い眼光で周囲を見回している。

その一歩一歩に周囲の空気が張り詰めるのがわかる。

その人物と目が合った瞬間、背筋に冷たいものが走った。

「……あの方は?」

小さな声で尋ねると、聖さんは低く、はっきりと告げた。

「俺の親父だ。」

ゾクリと背中に悪寒が走る。

そうだ、今日ここに来た本当の目的は──政略結婚を迫る父を前に、聖さんが“妻”を見せること。

息が詰まりそうな緊張の中、その男がこちらへと歩み寄ってくる。

(……逃げられない)

私は小さく深呼吸をして、震える手をそっとドレスの裾に重ねた。
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