一夜限りの契約妻──冷徹御曹司の独占愛は甘すぎて逃げられない
お父様は私をじっと見据えたまま、ゆっくりと口を開いた。

「なるほど……だが、神宮寺家の妻となれば、背負うものは重い。夜会に出席するだけで済むと思ってはいけないぞ。」

威圧するような声音に、周囲の視線が集まる。

心臓が跳ね上がりそうになるのを抑え、私は必死に笑顔を作った。

「はい。まだ未熟ですけど……でも、こうして皆さまとお話できるだけでも、とても勉強になります。」

庶民らしい正直な答えに、一瞬だけ会場の空気が和らぐ。

雅信は目を細め、さらに言葉を重ねた。

「君は格式高い家の生まれではないだろう。そういう世界で立ち振る舞うのは難しいと思うが?」

試すような問い。

私は一呼吸置き、にっこり笑った。

「はい、その通りです。だからこそ、学ばせていただけることが嬉しいです。……きっと、どんな仕事よりも充実しそうです。」

その場にいた人々から、くすりと笑いが漏れた。

張り詰めていた空気が少しずつ和み、視線が温かなものへと変わっていく。

お父様は一瞬だけ口元を動かした。

まるで「なるほど」と呟いたかのように。
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