一夜限りの契約妻──冷徹御曹司の独占愛は甘すぎて逃げられない
料理が運ばれてくると、自然と会話も弾みはじめた。

ワインのグラスを手にした聖さんが、ふとこちらを見て微笑む。

「そういえば、君のことをまだよく知らない。普段はどんな仕事をしてるの?」

「普通の事務職ですよ。書類と数字に囲まれて、残業も多くて……。でも職場の人はいい人たちなので、なんとかやってます。」

「昼は会社、夜は居酒屋。その上で借金を返済しているんだろう?」

静かな声に、私は苦笑いを浮かべた。

「はい。大変ですけど……働ける場所があるだけありがたいと思ってます。」

彼の瞳がじっと私を見つめてくる。

その視線に胸が熱くなる。

「立派だよ。普通なら投げ出してもおかしくないのに。」

「……褒められるようなことじゃないです。聖さんこそ、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか? 社長なんて、きっと大変でしょうに。」

聖さんはグラスを傾け、少し遠くを見た。

「父の背中を見てきただけさ。冷たいと言われるのも、そのせいかもしれない。」

その横顔に、ほんの一瞬だけ寂しさが見えた気がして、私は息をのんだ。

「……でも、今は君とこうして話している方が楽しい。」

その言葉に、胸の奥が温かく満たされていくのを感じた。
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