双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜
「嫌だ! 行かないでよ! カリンは僕と結婚するの!」

 急に後ろから私の足にしがみついて来た声の主は孤児のマリオだ。
 彼の水色のふわふわした髪が膝裏をくすぐってくる。
 まだ7歳の彼は将来私と結婚したいと可愛いことをいつも言ってくれた。

「アリアドネ様、私にも愛おしい人たちがいるんです。このマリオも、ここにいる全ての人が私の守りたい家族です。セルシオ国王陛下とお幸せになってください」

 私は膝をつきマリオを抱きしめながら、アリアドネに伝えた。
 セルシオの名前を発するだけで、声が震えそうになる。

 きっと私はあれ程に愛せる人に出会えることは2度とない。

 それでも、彼と夫婦になれば姉が幸せになれると私には確信があった。

 譲りたくない彼の妻という立場があっても、私には孤児院の子たちを守る義務がある。

「私のことはアリアお姉様と呼んで。両親が亡くなった今、私とあなただけが唯一の血が繋がった家族なの」

 姉が私に自分のはめている指輪を渡そうとしてくる。

 母の形見だという盗聴魔法のかかったゴールデンベリルの指輪だ。
 私はその手をそっと制した。

「私を捨てた両親の記憶……私にはないんです。私にとってはミレイアが私の母であり、この孤児院にいる可愛い子たちが私の家族です」

 私の言葉にあからさまに姉は顔を歪めた。

「では、その見窄らしいご家族とお幸せに……」
 姉は聞こえるか聞こえないかのような声で囁くと、背を向けて去っていった。

「カリン! お姫様になれるチャンスを奪ってごめんね。でも、僕はできる限りの努力をしてカリンを幸せにするから!」

 マリオの水色の瞳には切なそうな私の顔が映っていた。

 私はセルシオも、孤児院も守りたかった。
 それならば、これが最善の選択だ。

 きっと、カルパシーノ王国にいれば遠くからセルシオを見る機会はある。
 その時に一瞬でも彼の瞳に私を映してくれたら、それだけで十分だ。

♢♢♢

「今日は僕がカリンと寝るんだ!」
「私がカリンと寝るのよ!」
 毎晩のように私の隣で寝る権利を争う子たちが愛おしい。

「今日はみんなで固まって寝よう!」
 私は孤児院の子たちを思いっきり抱きしめた。
 その温かさに集中して、セルシオの妻にもうなれない寂しさを紛らわしたかった。

コンコン!

 眠りについていると子供たちが咳をしているのに気がついて目が覚めた。
「煙?」
 目を開けるとあたりは煙が充満していて、窓の外は炎で真っ赤に染まっている。
「火事よ! みんな逃げて」
 口元を手で押さえながら、ミレイアが部屋に入って来た。
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