双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜
「初めてだから怖いんだろう。アリアドネより僕を悦ばせてみろ。そうしたらお前を僕の隣に置いてやる」

 楽しそうに笑いながら口づけされそうになるが、目線の先にいたセルシオを見て思わず手で口元を押さえた。

「お前の大好きな男の首を持って来てやった。明日には城門にかけられカラスの餌になるからな」

 ルイス皇子はかなり悪趣味な男のようだ。
 そして、今、私の中で彼を生贄にする罪悪感が消滅した。

 私が純潔だということは、私自身しか知らない。
 それなのに、なぜルイス皇子は知っているのだろう。
 私はそっと肌身離さず身につけている指輪に触れた。

 これは、姉が母と別れる時に渡された形見の品だと聞いていた。
 姉と私と同じ琥珀色をしていたという私の産みの母の瞳。

 その瞳と似た色の宝石であったゴールデンベリルの指輪だ。

 「おっと、指輪を外すなよ。アリアドネにもお前が、どんな声で鳴いて俺を楽しませたのか聞かせてやれ」

 ルイス皇子の言葉に私は全てを察した。

 この指輪には盗聴魔法がかけられていたのだ。

 それゆえにカルパシーノ王国での城内の会話は筒抜けだったに違いない。
(隠し通路の位置が露見していたのも私のせいだわ)

 ルイス皇子が床に座り込む私をお姫様抱っこして、寝台に横たわらせた。
(位置はばっちりだわ)

 彼が私に覆いかぶさって来て、深い口づけをしてくる。
 彼は自分を捕食者だと思っているのだろう。

 だから、私から捕らわれるとは全く想像できていない。
 私は彼の髪を撫で口づけに没頭するふりをしながら、彼の腹を突き気絶させた。

「ウッ!」
 その場にうつ伏せに倒れるルイス皇子を見つめる。
 彼は帝国の皇子で火の魔力を持っていることで有名だ。

 カルパシーノ王国の城に火をつけたのも彼の魔力だろう。

 魔力により発せられた炎は対象物を燃やし尽くすまで、なかなか消えてくれない。あの日の炎は必死に水を掛けても勢いを増すばかりの魔力の込められた炎だった。

 しかしながら、魔力のある高貴な血筋の彼は生贄にはちょうど良い。
 
 もう1人生贄が必要だ。

 彼女をこちらに呼び寄せなければならない。

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