最強で、最孤
はじめての本気
「始め!」

道場に響く声と同時に、竹刀と竹刀が激しくぶつかり合った。

いつもの音とは、明らかに違った。

力が入っている。スピードも、気迫も、1、2段階上がっていた。

「......まじで、みんな変わってる」

白石は道場の鏡で構えを確認しながら、隣の大島に小さく呟いた。

「あんたの一言で、黒瀬先輩戻ってきたんだもん。みんな、もう逃げられないでしょ」

瑠那が部活に戻ってきてから、空気は一変した。

掛け声は強く、素振りの本数は倍になり、遅刻や私語はなくなった。

何より、“負けることへの恐れ”が部全体に根付き始めていた。

「詩織。その構え、隙ありすぎ。そんなんじゃすぐ負けるよ?」

瑠那の声が飛ぶ。

加藤が慌てて姿勢を正す。彼女の指摘は厳しい。でも的確だった。

「相手が打ってくる前に、自分の“気”で攻める。まず構えが正しくないと、それはできない。」

「......あぁ、分かった」

額から汗が垂れ落ちる。

竹刀を握る手に、力が入りづらい。

今までの“剣道ごっこ”とは、別世界。

そこには、手を抜く隙も、逃げる隙もなかった。
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