最強で、最孤


リビングに降りると、母がもうお弁当を作っていた。

「あ、もう起きたの?朝ごはんできてるわよ。食べてちょうだい」

「うん、ありがと」

瑠那はそのたくましい背中に、そっと頭を下げた。

母は振り返らずに、でも優しく言った。

「緊張しなくて良い。楽しんでおいで」



会場につくと、昨日よりも空気が張り詰めていた。

団体戦とは違う——

ここにいる全員が、自分のために勝ちに来てる。

顧問に登録を頼み、加藤とアップを始める。

今日は加藤と瑠那が個人戦に出場する。

体の調子は良い。

すると、昨日対戦した学校の選手とすれ違った。

「あ、黒瀬さん......昨日、大将戦、すごくかっこよかったです」

「えっ、あ、ありがとう」

少し驚きながらも、瑠那は笑って頭を下げた。

(......なんだろう、ちょっとうれしい)



アナウンスが響く。

「黒瀬瑠那選手、第2試合場に移動してください。」

(誰にも、負けるつもりはない)

(でも、もう勝利だけがすべてじゃない)

勝ちたいのは、証明したいから。
ここまでの努力も、仲間との時間も、全部——自分の中にあるから。

瑠那は、深く、奥深く、深呼吸をした。

「行ってきます」

そうつぶやき、試合場に移動した。

竹刀を握る手には、希望、感謝、喜び、悲しみ、いろいろな感情が込められていた——
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