最強で、最孤
エピローグ
大会が終わって数日が経った。
るなは、学校の道場にひとりいた。
道着ではなく、制服姿のまま、竹刀の整理をしていた。
引退式も終わり、ついに片付ける時が来た。
竹刀袋を手に持ち、静かに床を歩く。
ミシミシと鳴る床とも、もうこれでお別れだ。
(あっという間だったなぁ......)
誰も頼らずに強くなろうと決めて、外部の稽古に徹底し始めた張る。
冷たい目で見られることも、陰口も、全部分かっていた。
それでも、瑠那はめげずに進み続けた。
「勝ちたい」という、その一心だけで。
(でも、今はもう——)
「黒瀬先輩!」
ドアが開いて、白石が顔をのぞかせた。
1年生の彼女は、珍しく道着姿ではなく、運動着姿だった。
「まだ道場にいたんですね」
「うん、なんとなく。最後に、少しだけ」
白石は、少し躊躇してから瑠那の隣に腰を下ろした。
「......先輩が、部活来なかったとき、正直、怖かったです」
「私が?」
「はい。剣道も人間としても、全部突き放されてるみたいで。でも、あの中総体で分かったんです。先輩の背中は大きい...!」
白石は、今にも泣きそうな表情をしていた。
瑠那は少し驚いたように、目を見開く。
白石は、それでもまっすぐに言った。
「私、先輩みたいに強くなりたいです。ちゃんと、自分の道を決められるように」
瑠那は、ふっと笑った。
「私も、最初は怖かったよ。全部1人だけで背負わなきゃって、押しつぶされそうになって。でも、......少しずつ、変われたんだと思う。」
「変わったんじゃなくて、やっと見れたんじゃないですか?周りの人のこと」
その言葉に、瑠那は少し目を伏せた。
「......かもね」
「私、来年の中総体、本気でやります。だから、もし見に来てくれたら——」
「行くよ、絶対。約束。」
その瑠那の返事に、白石はぱっと笑顔になった。
「じゃあ、かっこ悪いところ見せらんないですね!頑張ります!」
元気よく立ち上がって、白石は道場を出ていった。
瑠那は、ひとり残った空間で、竹刀袋の紐を結び直す。
静かで、優しくて、寂しい時間だった。
(これで、私の中学剣道は、終わる。でも......まだ、この先がある)
進路はもう、決まっていた。
剣道の強豪校。全国を目指す場所。
でも勝つだけじゃない。
——いつか、自分のように悩む誰かに、剣道の意味を伝えられる人になりたい。
——好きなものを、自信を持って、堂々と誇れるようになりたい。
そんな想いも、胸の奥で確かに生まれていた。
るなは、学校の道場にひとりいた。
道着ではなく、制服姿のまま、竹刀の整理をしていた。
引退式も終わり、ついに片付ける時が来た。
竹刀袋を手に持ち、静かに床を歩く。
ミシミシと鳴る床とも、もうこれでお別れだ。
(あっという間だったなぁ......)
誰も頼らずに強くなろうと決めて、外部の稽古に徹底し始めた張る。
冷たい目で見られることも、陰口も、全部分かっていた。
それでも、瑠那はめげずに進み続けた。
「勝ちたい」という、その一心だけで。
(でも、今はもう——)
「黒瀬先輩!」
ドアが開いて、白石が顔をのぞかせた。
1年生の彼女は、珍しく道着姿ではなく、運動着姿だった。
「まだ道場にいたんですね」
「うん、なんとなく。最後に、少しだけ」
白石は、少し躊躇してから瑠那の隣に腰を下ろした。
「......先輩が、部活来なかったとき、正直、怖かったです」
「私が?」
「はい。剣道も人間としても、全部突き放されてるみたいで。でも、あの中総体で分かったんです。先輩の背中は大きい...!」
白石は、今にも泣きそうな表情をしていた。
瑠那は少し驚いたように、目を見開く。
白石は、それでもまっすぐに言った。
「私、先輩みたいに強くなりたいです。ちゃんと、自分の道を決められるように」
瑠那は、ふっと笑った。
「私も、最初は怖かったよ。全部1人だけで背負わなきゃって、押しつぶされそうになって。でも、......少しずつ、変われたんだと思う。」
「変わったんじゃなくて、やっと見れたんじゃないですか?周りの人のこと」
その言葉に、瑠那は少し目を伏せた。
「......かもね」
「私、来年の中総体、本気でやります。だから、もし見に来てくれたら——」
「行くよ、絶対。約束。」
その瑠那の返事に、白石はぱっと笑顔になった。
「じゃあ、かっこ悪いところ見せらんないですね!頑張ります!」
元気よく立ち上がって、白石は道場を出ていった。
瑠那は、ひとり残った空間で、竹刀袋の紐を結び直す。
静かで、優しくて、寂しい時間だった。
(これで、私の中学剣道は、終わる。でも......まだ、この先がある)
進路はもう、決まっていた。
剣道の強豪校。全国を目指す場所。
でも勝つだけじゃない。
——いつか、自分のように悩む誰かに、剣道の意味を伝えられる人になりたい。
——好きなものを、自信を持って、堂々と誇れるようになりたい。
そんな想いも、胸の奥で確かに生まれていた。