明日からちゃんと嫌いになるから
これでも邪魔しないよう気を遣っているのだと、声を大にして主張したいとことだ。

「北島の言葉に裏なんかないよ。捻くれた捉え方は感心しない」

「そうだとしても、三人のほうが気兼ねなく話せて楽しいはずです」

お互い自分が正しいと主張し合って、これでは平行線だ。なのに泉は六花のほうがわからず屋だと断定していて、ため息をついてきた。

「とりあえずホテルに移動しよう」

結局北島も凛子も同行してくれて、湾岸地域を走る路線でお台場まで戻ってきた。そこから二人をホテルのロビーに待たせて、六花と泉はチェックインを済ませる。

そこから荷物の運び入れのために客室に向かった。六花と泉は隣の部屋だった。ポーターが退室していった直後、泉がやってきて改めて食事に行こうと誘ってくる。

「二人を待たせているから、行こう」

「私は遠慮させて」

さっきとまた同じことを繰り返しになってしまう。一度決めると泉は頑なだ。

「あまりわがままは言うものじゃない……」

「だから、違うの。滅多に会えない本社の同期の人たちでしょ? 私のことは気にせず楽しんできて。私は初対面でどうしたって気をつかうから、一人の方が気楽なの」

六花が真剣に訴えると、泉もさすがに理解を示し「わかった」と折れてくれた。

「夕飯はどうするつもりなんだ?」

「上階のバーに、飲みにでも行こうかな?」

さっきフロントで見た案内で、夜景が綺麗なバーがあると知った。せっかくだから東京でしか経験できないことをしてみたいと軽い気持ちで口にしたが、泉が眉間の皺を深める。

「絶対に行くなよ。下のコンビニかルームサービス。こっちも二時間後には切り上げて戻るから、そのとき部屋にいるか確認する。それと明日は二人で夕食を食べられるようにするから」

点呼の先生みたい……。もし思ったことを口にしていたら、お小言が続いてしまっただろう。六花はギリギリ心の中に留めて彼を見送った。

そして一息ついたあと、言われたとおりホテルの下にあるコンビニでサンドウィッチとインスタントのスープ、それに甘いデザートを購入し、部屋で食べた。お風呂に入ったあたりでもうすぐ夜の九時を迎えるところだった。

(あ……そういえば、報告を……)

先日見合いをした正樹とは、一度電話で話していて、この週末……日曜日に会う約束をしている。一応デートと言えばいいのか。その約束を交わす時に六花は東京への出張を告げていた。

こういうとき、未来のパートナーには無事に到着したことを告げたほうがいいかもしれない。

予定を決めるとき当直の日についても軽く教えてくれたので、今日は連絡をしても大丈夫だったはずと、六花は正樹の番号をコールしてみた。

彼は甘い物は好きだろうか? 好みを聞いて、お土産を買って週末渡すのも悪くない。観光はできなくとも、帰りがけに東京駅で土産を買うくらいの時間はあるはずだから。

電話にでてくれたらいいな……。そんな軽い気持ちだった。

『もしもし……?』

五回目のコールで聞こえてきたのは、若い女の人の声だった。戸惑っているような声。

「……ごめんなさい。間違えました」

六花は咄嗟に謝罪を入れて、すぐに通話を切る。誰か知らない女の人に、かけてしまった。でも……。

(え、なに……?)

通話を切ってから、じわじわと今のは不可思議なことだったという気持ちが強くなる。

お見合いの日、別れ際にお互いの連絡先を交換して、そのとき最初に正樹の番号聞いて、六花はその番号にコールをしている。間違いはありえない。

(だったら、妹さんかな?)

でも正樹は確か……実家暮らしではなかったはず。もしたまたま妹と一緒にいて、電話をかけたとき正樹は席をはずしていたとする。

通話画面には六花の名前が出ていただろうから、妹が不在を知らせようと出てくれたのだとしたら、すぐに折り返しの電話があるはずだ。

問題のない推測をして、六花はひとまず動揺を落ち着かせた。しかし待っても折り返しがなかったことで、またもやもやとした気分が勝手に広がってくる。
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