明日からちゃんと嫌いになるから
自分から、もう一度確認する勇気はない。想像だけでは真相を解明することはできないので、六花は考えるのを放棄した。

ベッドに寝そべって、脱力して……とりあえず投げ出したい気分になる。

(こういうときは早く寝よう)

でも気になることがあり、もう一度だけスマホを手にした。寝る前に、泉にショートメッセージを送っておいたほうがいいと気づいたのだ。

『六花です。ちゃんと部屋で食事をとりました。今日はもう寝ます。おやすみなさい。明日の朝食で』

ただの点呼避けのメッセージを送ると、すぐに返事があった。

『わかった。おやすみ、よい夢を』

あかりを消して目をとじてみたが、まったく眠くならない。結局この夜、正樹からの連絡はついになかった。


   §


心の問題だったのか、それとも枕が変わったせいか……六花は明け方近くまで眠ることができなかった。それでも二時間くらいはうとうと浅い眠りをしていたはずで、翌日活動をはじめれば、その緊張感と共に眠さは吹き飛んでいく。

事前に言われていたとおり、この日は凛子に従いイベントスタッフとして忙しく動き回った。他の事業所から助っ人でやってきた人も、ちょうど六花と同世代が多く、先輩格の凛子をリーダーに、みんなで協力し合いスムーズに運営していくことができた。

お昼休憩は、凛子と一緒だ。スタッフ用の休憩スペースで、会社から支給されたお弁当を二人で並んで食べていると凛子のほうからこんな話を切り出してくる。

「昨日、あなたも参加すればよかったのに。昼は仕出し弁当、夜はコンビニ弁当ってあんまりじゃない」

北島も凛子も、本当に気さくで接しやすい。泉の言ったとおりで言葉の裏なんて気にするのは失礼だったのかもしれないと、少し反省する。

「せっかく誘っていただいたのに、ごめんなさい。あの……昨日はなにかおいしいものを食べられました?」

六花が問うと、凛子はにっこりと微笑んで、昨日はパエリャを食べたことと、飲み過ぎないように注意したのに北島がいいペースで飲んでいたので、本人は隠しているけれど二日酔いの可能性があると教えてくれた。

そうして彼女は続けて言う。

「ふふっ……。本当はね……北陸にいた頃に宮下さんとこうやって話してみたかったのよね……」

過去を懐かしむような、後悔を残しているような複雑な表情を浮かべた凛子を見て、六花は尋ねずにはいられなかった。

「あの……汐見さんは今……、その……柴田主任とは?」

六花がその問いをすると、ふうっと深いため息が聞こえてくる。そうして凛子は自虐的な笑みを浮かべながら語ってくれた。

「別れたきり、連絡もとってなかったわ。私たちは地方勤務や海外勤務があるけれど二、三年で本社に戻るじゃない? だからあの年、私が北陸から離れることは前から決まっていたのよね。柴田くんはイレギュラーな転勤だったから、落ち着いたのなら早く本社に戻れるよう、また希望を出してくれって頼んだの」

六花は理解して頷く。本社総合職の若い世代は、研修の意味を含めて地方勤務を経験することが多いと聞いている。凛子は入社一年目が本社勤務、二年目から三年間北陸勤務となった。

本来はその期間、同世代の本社総合職の人間が同じ事業所に配属されることはないのだが、泉は私的な事情……母の病を理由に北陸勤務にしてもらったのだ。

真由美の体調は落ち着いているから、希望を出しても出さなくても泉はそのうち本社に戻るのだろうと、六花も思っていた。

凛子はさらに言う。

「結婚と東京での暮らし……それが私にとって疑いようもない未来だった。でも彼は違った。結婚の約束はできないって、はっきりそう言ったの。お母様は回復されたときいて、だからなんで? って思ったわ。それでギクシャクよ。私も焦っちゃった……。二十歳後半になって、結婚の意思がない人とずるずると付き合っていて大丈夫なの? って不安になった」

「どうして結婚の約束ができなかったのか、理由はわからないんですか?」
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