明日からちゃんと嫌いになるから
凛子の言い分はよくわかる。六花の場合は自分の意思より父の希望に添ったものだが、いつ結婚するかという問題は、女性の人生においてどうしても意識せざるをえない重要な事柄だ。
そして泉は無責任な人間ではないはず。だから泉が凛子と交際しておきながら、結婚を考えなかったのは、とても意外だった。
「そう……彼、あまり自分のこと話してくれないのよね。家族のことも。籍は抜いてあるとは聞いていたけれど、そのうちお母様や妹さんを正式に紹介してもらえるんじゃないかなって、私は勝手に想像してた」
それは六花も自分の立場で想像したことがある。いつか泉が凛子と結婚するのだと知らされる日を。「おめでとう」と言わなければならない日を。
凛子は六花のことを義妹になりそこねた存在としてみてくれているようで、そんな彼女に比べて昔も今も、密かに嫉妬心を燃やしている自分のことが後ろめたくてしかたない。
「私はね、別れてものすごく後悔してる。やっぱり一緒にいればよかったって。もっとよく話し合えばよかったって。お互い心が離れたわけじゃなかったから……。ただ私がちゃんと向き合えなかったせい。……ねえ、宮下さん、私ね、今夜柴田くんと二人で食事に行きたいんだけど、協力してくれないかな?」
凛子は真剣に訴えてきた。六花はその切実さに、気圧される。もしも今夜、泉と凛子が二人で会ったら、なにが起こる?
「…………協力、ですか?」
「そう。きっとまたあなたを食事に連れ出そうとするでしょう? 一人にしてしまうのは申し訳ないけど……でも私には今夜しかないの! お願い!」
「…………はい。わかりました」
拒否なんてできなかった。こんなに一生懸命な人の邪魔なんてしてはいけない。
どうして泉は結婚に前向きではなかったのかわからないが、泉と凛子は間違いなくお似合いだ。それにたぶん凛子と別れたあと、泉に特別な人は存在していない。だから泉も、凛子のことを憎からず思っている可能性が高い。
泉と凛子が復縁したら……そうしたら六花は思い知らされて、いつまでもくすぶっているこの気持ちとちゃんとお別れできるのかもしれない。
§
午後に一度、短い休憩時間をとったとき、お互い別々に動いていた泉と会うことができた。
「柴田主任」
話しかけにいっても、今の彼は六花を邪険にするようなことはない。一応今は仕事中で他の人の目もあるので、社会人らしい言葉使いで接する。
「あの、今夜は仲よくなった女性スタッフと食事に行ってきます」
一緒に食事をとるように約束させられていたので、先に断りを入れておきたかったのだ。
「汐見と?」
尋ねられ、六花は小さく首を横に振った。
「汐見さんではなく、別の……九州からの応援スタッフ二人……です」
これは嘘ではない。今夜の予定について、凛子に頼まれ了承してしまったので、六花はどうにか泉との約束を反故にしなければならなかった。
でも具合が悪いと言えば面倒なことになりそうだし、北島に協力を仰いで六花は彼と二人で食事にいく……というのも多分通用しないと思った。泉は六花がお見合いしたことを知っているから「相手がいるのに、別の男に色目を使うな」と怒るに決まっているから。
午後からしばらくどうしたものかと悩んでいると、時間をずらして休憩をとっていた女性スタッフ二人が戻ってきて、「今日一緒にごはんに行かない?」と誘ってくれたのだ。
「女性、なんだな?」
予想通り、泉が気にするのはそこだった。
「もちろん」
「食事だけしたら必ず戻ると約束できるか? 知らない男に声かけられても絶対についていくな。アルコールは二杯まで」
また、泉の引率としての責任感が全面に出てきてしまう。
「約束します」
「……やけに素直で怪しいんだけど?」
そして泉は無責任な人間ではないはず。だから泉が凛子と交際しておきながら、結婚を考えなかったのは、とても意外だった。
「そう……彼、あまり自分のこと話してくれないのよね。家族のことも。籍は抜いてあるとは聞いていたけれど、そのうちお母様や妹さんを正式に紹介してもらえるんじゃないかなって、私は勝手に想像してた」
それは六花も自分の立場で想像したことがある。いつか泉が凛子と結婚するのだと知らされる日を。「おめでとう」と言わなければならない日を。
凛子は六花のことを義妹になりそこねた存在としてみてくれているようで、そんな彼女に比べて昔も今も、密かに嫉妬心を燃やしている自分のことが後ろめたくてしかたない。
「私はね、別れてものすごく後悔してる。やっぱり一緒にいればよかったって。もっとよく話し合えばよかったって。お互い心が離れたわけじゃなかったから……。ただ私がちゃんと向き合えなかったせい。……ねえ、宮下さん、私ね、今夜柴田くんと二人で食事に行きたいんだけど、協力してくれないかな?」
凛子は真剣に訴えてきた。六花はその切実さに、気圧される。もしも今夜、泉と凛子が二人で会ったら、なにが起こる?
「…………協力、ですか?」
「そう。きっとまたあなたを食事に連れ出そうとするでしょう? 一人にしてしまうのは申し訳ないけど……でも私には今夜しかないの! お願い!」
「…………はい。わかりました」
拒否なんてできなかった。こんなに一生懸命な人の邪魔なんてしてはいけない。
どうして泉は結婚に前向きではなかったのかわからないが、泉と凛子は間違いなくお似合いだ。それにたぶん凛子と別れたあと、泉に特別な人は存在していない。だから泉も、凛子のことを憎からず思っている可能性が高い。
泉と凛子が復縁したら……そうしたら六花は思い知らされて、いつまでもくすぶっているこの気持ちとちゃんとお別れできるのかもしれない。
§
午後に一度、短い休憩時間をとったとき、お互い別々に動いていた泉と会うことができた。
「柴田主任」
話しかけにいっても、今の彼は六花を邪険にするようなことはない。一応今は仕事中で他の人の目もあるので、社会人らしい言葉使いで接する。
「あの、今夜は仲よくなった女性スタッフと食事に行ってきます」
一緒に食事をとるように約束させられていたので、先に断りを入れておきたかったのだ。
「汐見と?」
尋ねられ、六花は小さく首を横に振った。
「汐見さんではなく、別の……九州からの応援スタッフ二人……です」
これは嘘ではない。今夜の予定について、凛子に頼まれ了承してしまったので、六花はどうにか泉との約束を反故にしなければならなかった。
でも具合が悪いと言えば面倒なことになりそうだし、北島に協力を仰いで六花は彼と二人で食事にいく……というのも多分通用しないと思った。泉は六花がお見合いしたことを知っているから「相手がいるのに、別の男に色目を使うな」と怒るに決まっているから。
午後からしばらくどうしたものかと悩んでいると、時間をずらして休憩をとっていた女性スタッフ二人が戻ってきて、「今日一緒にごはんに行かない?」と誘ってくれたのだ。
「女性、なんだな?」
予想通り、泉が気にするのはそこだった。
「もちろん」
「食事だけしたら必ず戻ると約束できるか? 知らない男に声かけられても絶対についていくな。アルコールは二杯まで」
また、泉の引率としての責任感が全面に出てきてしまう。
「約束します」
「……やけに素直で怪しいんだけど?」