明日からちゃんと嫌いになるから
「そんなことない。私をなんだと思ってるの? 社交性は大事でしょう。昨日は私が間違ってたと反省したの。今日、せっかく同世代の人に誘ってもらえたから、どうしても行きたい。場所も汐見さんから昨日のパエリャが美味しかったと聞いたから、同じところに行ってきます。あ、泊まってるホテルも同じ人たちだから安心して」

ちょっと卑怯ではあるけれど、昨日泉が行った店であれば、連日の来店となるのに、自分も同行するなどとは言い出さないだろう。それに知っている所なら、彼は安心するはずだった。

「わかった。ホテルに戻ったら、ちゃんと連絡を入れてくれ」

六花の作戦は成功し、泉は納得してくれた。凛子は北島にも根回しすると言っていたので、きっと今夜泉は必然と凛子と二人で食事に行くことになるだろう。


この日も前日と同じような時間に解散となり、六花は予定通りほかの女性スタッフ二名と行動を共にする。

泉と凛子のことは気になっていたが、意識しすぎるのはよくないとあえて二人の様子を確認しないままさっさと会場を出ていった。

一緒に食事をした二人とも、六花と同じように地方勤務の助っ人スタッフだったので、おしゃべりをしながらゆっくり過ごし、九時過ぎにはホテルに戻る。

『業務連絡。ただいまホテルに戻りました。本日も一日お疲れさまでした。明日もよろしくお願いします』

凛子が一緒にいるかもしれないと思い、昨日より事務的な文面にして、いつものショートメッセージ機能を使って、泉に報告をする。

泉からの返事は昨日より反応が遅く、十分後くらいに届いた。

『お疲れさま、また明日』

泉は今頃どうしているのか? 返事が遅かったのは、凛子といい雰囲気になっているからだろうか? 六花はいちいち報告しなくてはいけなくて、泉は自分のことをなにも言わないでいいなんて、フェアではないから腹立たしい。

(ああ、もう嫌になる……)

早く、泉のことを気にしないでいられる自分になりたい。

気づけば昨日の正樹の電話について、すっかり忘れていて、また泉のことばかり考えている。

今夜は凛子とずっと一緒にいるかもしれない。離れていた時間を埋めるように気持ちを確かめ合い、抱き合ったり……キスをしたり……もしかしてそれ以上のことも?

考えるだけで、虚しくて、でもなにもできない……その権利すらもらえない自分の立場を嘆きそうになった。


   §


朝起きて、泉とはホテルでの朝食の席で一緒になった。昨日は凛子と何時くらいまで一緒にいたのか? 顔を見ただけではまったくわからない。眠さも疲れも感じさせない、いつもどおりの泉だった。

一方六花は、二日連続であまり眠れていない。顔を洗って眠さは一度引っ込んだが、疲れはとれなかった。とはいえ今日が最終日だから、どうにかなるだろう。

凛子となにを話したの? 二人はよりを戻すの? ……そんなことを泉に尋ねたくなったけれど、自分はなにも知らない立場を貫かなくてはならなかった。

六花は当事者ではなく、外野にすぎない。それはイベント会場に移動して、凛子と顔を合わせても同じ事だった。

「昨日はありがとう、おかげで久々に二人でちゃんと話せたわ」

朝の挨拶のあと、凛子は自らそんな報告をしてくれた。でも……。

「それはなによりです。……あの、仲直りできましたか?」

「ええ! わだかまりは解けたはず。宮下さんのおかげよ」

彼女はそれだけ言って、深い話はしてくれなかった。ただ表情の明るさと、その後の泉との接し方……たとえばちょっとした会話で軽く泉の肩に触れる凛子の仕草を見て、六花は入り込めない二人の関係を受け入れるしかなかった。

最終日の展示会は午後三時終了で、そこから一時間ほど片づけを手伝ったあと、今日中に北陸に戻る六花たちはほかのメンバーより早く帰路につくことが許された。
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