明日からちゃんと嫌いになるから
新幹線に乗る前には、東京駅で土産を購入した。それぞれが菓子ばかり買ってもしかたないだろうと、実家へは真由美が好きなものを共同で購入することにした。それと部署の皆に配れるような個包装のお菓子も。……と言っても結局支払いは泉が全部してしまったのだが……。
六花はもういちいち泉の決めたことに文句は言わない。どうせ彼は譲らないとわかっている。
「私はこれだけ、別に買う」
個人的な土産を一個だけ購入した。二日後に会う予定の正樹に渡す分だ。そこから新幹線に乗り込むが、泉は「外が見たいだろう」と六花に窓際の席を譲ってくれた。
出発してしばらくのあいだは、どちらからでもなく自然におしゃべりをした。主に北島や汐見のことだ。
「汐見さんにはお世話になったから、お礼言っておいて。……彼女とっても素敵な人ね。いっちゃんとお似合い……」
話の流れで六花はずる賢くも、泉と汐見の関係がどうなったのか聞き出そうと試みた。しかしこれはわざとらしかったのか、話題は完全に流されてしまう。「そうだな」の同意ひとつもなく、ただため息を吐かれてしまった。
そして彼は、逆に六花に問いかけてきた。
「お前の見合いは? 相手はどんな男だった?」
泉の眼差しが真剣なものだったので、六花もちゃんと考えて答えた。……泉が喜びそうな回答を。
「うん、優しそうでいい人だった。真面目な性格かな? 日曜日に二人で会う予定……順調だよ」
「そうか……ならよかった」
「どうしていっちゃんは、私のお見合いのことを気にしてくれるの?」
このことで、多少なりとも真由美とやりとりをしていることは知っていた。演技ではなく、相手がどんな人間か、気になっているのは事実のようだ。見捨てておけばいいのに……。
「……俺は、六花の結婚を見届けたいと思ってる。幸せになってほしいんだ。それだけを心から願っている」
わかっていたのに、聞かなきゃよかった。幸せを願ってもらったのに……これほど残酷なことはない。泉の幸せが、六花がこれから泉以外の誰かと築くであろう幸せの先にあるのだと、彼はそう言っているのだ。
「ありがとう。……疲れたから私、少し寝るね」
「深く寝入ってたら、ちゃんと起こすから安心しろ」
「うん、おやすみ」
泣かないと決めたから、それを守る。六花は暗くなっていった窓のほうに顔を向けて、目をとじた。
§
正樹から六花へ連絡が入ったのは、土曜日の夜だった。
『ご連絡が遅れて申し訳ありません。仕事の予定が確定していなかったもので……。六花さんは明日のご都合お変わりありませんか?』
結局正樹は、六花からの着信には気づいていなかったということなのか。
今はじめて連絡を取り合っている雰囲気なので、六花はとりあえず問われた部分……明日の都合について「大丈夫」だと答えた。
そうして翌日、日曜日は午後一番で待ち合わせをした。正樹からの提案で、無難に映画を観ることにしていたのだが……。
もともとお互いを理解し合うための機会だったはずなのに、二時間黙って座っているだけで、関係を深めるために大きな意味があったとは思えない。
普段の六花は映画鑑賞が好きで、一人でもよく行く。この日観たようなしっとりとしたハリウッドの恋愛映画なら、すぐに感情移入して涙ぐんでしまうのだが……不慣れな相手と一緒だと、余計なことを考えてしまい集中できなかった。
泣いたら化粧が崩れてみっともないと思われないか、そもそも映画を見て泣きたくなる気持ちを理解してもらえるか、……そんなどうでもいい心配をしてしまったのだ。
映画が終わってから二人でカフェに入ってみたものの、お互いに様子をうかがう状態が続いてしまう。
「おもしろかったですね」
六花がそう述べると、正樹も頷く。
「ええ、とてもおもしろかったです」
でもそれだけだ。あの俳優がかっこよかったとか、あのシーンが感動したとか……それすら言えない。二人のあいだにはたびたび沈黙がやってきてしまう。
「そういえば六花さん、東京の出張はどうでした?」
六花はもういちいち泉の決めたことに文句は言わない。どうせ彼は譲らないとわかっている。
「私はこれだけ、別に買う」
個人的な土産を一個だけ購入した。二日後に会う予定の正樹に渡す分だ。そこから新幹線に乗り込むが、泉は「外が見たいだろう」と六花に窓際の席を譲ってくれた。
出発してしばらくのあいだは、どちらからでもなく自然におしゃべりをした。主に北島や汐見のことだ。
「汐見さんにはお世話になったから、お礼言っておいて。……彼女とっても素敵な人ね。いっちゃんとお似合い……」
話の流れで六花はずる賢くも、泉と汐見の関係がどうなったのか聞き出そうと試みた。しかしこれはわざとらしかったのか、話題は完全に流されてしまう。「そうだな」の同意ひとつもなく、ただため息を吐かれてしまった。
そして彼は、逆に六花に問いかけてきた。
「お前の見合いは? 相手はどんな男だった?」
泉の眼差しが真剣なものだったので、六花もちゃんと考えて答えた。……泉が喜びそうな回答を。
「うん、優しそうでいい人だった。真面目な性格かな? 日曜日に二人で会う予定……順調だよ」
「そうか……ならよかった」
「どうしていっちゃんは、私のお見合いのことを気にしてくれるの?」
このことで、多少なりとも真由美とやりとりをしていることは知っていた。演技ではなく、相手がどんな人間か、気になっているのは事実のようだ。見捨てておけばいいのに……。
「……俺は、六花の結婚を見届けたいと思ってる。幸せになってほしいんだ。それだけを心から願っている」
わかっていたのに、聞かなきゃよかった。幸せを願ってもらったのに……これほど残酷なことはない。泉の幸せが、六花がこれから泉以外の誰かと築くであろう幸せの先にあるのだと、彼はそう言っているのだ。
「ありがとう。……疲れたから私、少し寝るね」
「深く寝入ってたら、ちゃんと起こすから安心しろ」
「うん、おやすみ」
泣かないと決めたから、それを守る。六花は暗くなっていった窓のほうに顔を向けて、目をとじた。
§
正樹から六花へ連絡が入ったのは、土曜日の夜だった。
『ご連絡が遅れて申し訳ありません。仕事の予定が確定していなかったもので……。六花さんは明日のご都合お変わりありませんか?』
結局正樹は、六花からの着信には気づいていなかったということなのか。
今はじめて連絡を取り合っている雰囲気なので、六花はとりあえず問われた部分……明日の都合について「大丈夫」だと答えた。
そうして翌日、日曜日は午後一番で待ち合わせをした。正樹からの提案で、無難に映画を観ることにしていたのだが……。
もともとお互いを理解し合うための機会だったはずなのに、二時間黙って座っているだけで、関係を深めるために大きな意味があったとは思えない。
普段の六花は映画鑑賞が好きで、一人でもよく行く。この日観たようなしっとりとしたハリウッドの恋愛映画なら、すぐに感情移入して涙ぐんでしまうのだが……不慣れな相手と一緒だと、余計なことを考えてしまい集中できなかった。
泣いたら化粧が崩れてみっともないと思われないか、そもそも映画を見て泣きたくなる気持ちを理解してもらえるか、……そんなどうでもいい心配をしてしまったのだ。
映画が終わってから二人でカフェに入ってみたものの、お互いに様子をうかがう状態が続いてしまう。
「おもしろかったですね」
六花がそう述べると、正樹も頷く。
「ええ、とてもおもしろかったです」
でもそれだけだ。あの俳優がかっこよかったとか、あのシーンが感動したとか……それすら言えない。二人のあいだにはたびたび沈黙がやってきてしまう。
「そういえば六花さん、東京の出張はどうでした?」