明日からちゃんと嫌いになるから
恋人と、一度切り出した別れ話を撤回して関係を続けているか、女性のほうが日陰の存在では嫌だと断ち切ってきたか……。六花はなんとなく、関係が続いているものと思っている。
正樹とは、結婚式の準備で何度も会っているが、六花とは手を繋ぐことも腕をくむこともしない。本当にわかりやすい人だ。
家族はクリスマスのこの日、六花は当然正樹と一緒に過ごすと思っているが、実際には彼に遠慮して、そんな提案をしなかった。そして彼からの誘いも当然なかった。
「こんな日は、邪魔をしたら悪いものね……」
クリスマスイブなのに……部屋で一人、寂しい夜を迎えようとしている自分を笑う。真由美から着信があったのは、そんなふうに過ごしていた午後のことだった。
『六花ちゃん! お義母さんが家で倒れて……救急搬送してもらって今は病院なんだけど』
予期せぬ事態に、六花はさっと血の気を引かせた。
(おばあちゃんが……?)
これまで病気知らずで、誰からの世話も受けずに離れで一人生活していた人だが、年齢は七十。もっと気にかけるべきだったのでは? とどっと後悔が押し寄せる。
動揺しながらも、落ち着けと言い聞かせて六花は真由美から容態を聞いた。
真由美が離れの階段の下で倒れている祖母を発見したとき、意識がなかったのだと言う。でも救急車を呼び搬送されるころには最低限の呼びかけには応じられたようだ。そして宮下総合病院に搬送され、今は処置を受けていると教えてくれた。
とりあえず、意識が一度回復しているのなら最悪の状態ではない。
「私もすぐに行くから……」
大事ないようにと祈りながら、タクシーに乗って急いで病院に駆けつけ真由美と合流する。その頃には祖母は病室に移されていた。
「六花ちゃん、電話をしてしまってごめんね。……相原さんは?」
「キャンセルしてきた。おばあちゃんが心配だったから」
キャンセルするような約束なんて、最初からなかった。嘘を吐いていることが心苦しくもあるが、これはしかたのないことだ。
「頭を打ったみたいなの……搬送される前に転んだって口にしていたから。転んだ拍子に脳震盪起こしたかもしれない。足の骨にヒビが入っているのと、頭部打撲という見立てだったわ。念のため明日、頭部の検査をすることになったから、今日はこのまま入院になるそうよ」
時間を作ってきたのか、父も姿を見せた。二人はこれから父の車で自宅に戻り、入院の準備をしてくるという。
「六花。約束があったんじゃないのか? こっちのことはそう心配いらないから、顔を見たら戻りなさい」
父がそう言うと、真由美も「まだ夕方だから、今からでも会えるわ」と六花を帰そうとしていた。
「じゃあ、私もう少しだけここにいてから帰るね」
曖昧な同意をしながら、病室から出ていく両親を見送る。そうして眠る祖母の脇にイスを置いて、その手を取った。
(ああ……よかった)
ちゃんとあったかい。しわしわの手には、はっきりとしたぬくもりがある。……一番手のかかる乳幼児期に六花を育ててくれたのは祖母だ。六花にとってかけがえのない人だった。
日が暮れていく室内でしばらく祖母の手を握っていると、病室の扉が静かに開く。そこに大きな影が浮かぶ。
「……いっちゃん、来てくれたの?」
姿を見せたのは、泉だった。真由美から連絡が入ったからやってきたのだろう。祖母が寝ているのを確認すると、頷き、座る六花の後ろまでやってきた。
先に六花が声を発してしまったからだろうか? 泉と二人で見守っていると、祖母の瞼がピクピクと動き出した。そうしてゆっくりと目が開いていく。
正樹とは、結婚式の準備で何度も会っているが、六花とは手を繋ぐことも腕をくむこともしない。本当にわかりやすい人だ。
家族はクリスマスのこの日、六花は当然正樹と一緒に過ごすと思っているが、実際には彼に遠慮して、そんな提案をしなかった。そして彼からの誘いも当然なかった。
「こんな日は、邪魔をしたら悪いものね……」
クリスマスイブなのに……部屋で一人、寂しい夜を迎えようとしている自分を笑う。真由美から着信があったのは、そんなふうに過ごしていた午後のことだった。
『六花ちゃん! お義母さんが家で倒れて……救急搬送してもらって今は病院なんだけど』
予期せぬ事態に、六花はさっと血の気を引かせた。
(おばあちゃんが……?)
これまで病気知らずで、誰からの世話も受けずに離れで一人生活していた人だが、年齢は七十。もっと気にかけるべきだったのでは? とどっと後悔が押し寄せる。
動揺しながらも、落ち着けと言い聞かせて六花は真由美から容態を聞いた。
真由美が離れの階段の下で倒れている祖母を発見したとき、意識がなかったのだと言う。でも救急車を呼び搬送されるころには最低限の呼びかけには応じられたようだ。そして宮下総合病院に搬送され、今は処置を受けていると教えてくれた。
とりあえず、意識が一度回復しているのなら最悪の状態ではない。
「私もすぐに行くから……」
大事ないようにと祈りながら、タクシーに乗って急いで病院に駆けつけ真由美と合流する。その頃には祖母は病室に移されていた。
「六花ちゃん、電話をしてしまってごめんね。……相原さんは?」
「キャンセルしてきた。おばあちゃんが心配だったから」
キャンセルするような約束なんて、最初からなかった。嘘を吐いていることが心苦しくもあるが、これはしかたのないことだ。
「頭を打ったみたいなの……搬送される前に転んだって口にしていたから。転んだ拍子に脳震盪起こしたかもしれない。足の骨にヒビが入っているのと、頭部打撲という見立てだったわ。念のため明日、頭部の検査をすることになったから、今日はこのまま入院になるそうよ」
時間を作ってきたのか、父も姿を見せた。二人はこれから父の車で自宅に戻り、入院の準備をしてくるという。
「六花。約束があったんじゃないのか? こっちのことはそう心配いらないから、顔を見たら戻りなさい」
父がそう言うと、真由美も「まだ夕方だから、今からでも会えるわ」と六花を帰そうとしていた。
「じゃあ、私もう少しだけここにいてから帰るね」
曖昧な同意をしながら、病室から出ていく両親を見送る。そうして眠る祖母の脇にイスを置いて、その手を取った。
(ああ……よかった)
ちゃんとあったかい。しわしわの手には、はっきりとしたぬくもりがある。……一番手のかかる乳幼児期に六花を育ててくれたのは祖母だ。六花にとってかけがえのない人だった。
日が暮れていく室内でしばらく祖母の手を握っていると、病室の扉が静かに開く。そこに大きな影が浮かぶ。
「……いっちゃん、来てくれたの?」
姿を見せたのは、泉だった。真由美から連絡が入ったからやってきたのだろう。祖母が寝ているのを確認すると、頷き、座る六花の後ろまでやってきた。
先に六花が声を発してしまったからだろうか? 泉と二人で見守っていると、祖母の瞼がピクピクと動き出した。そうしてゆっくりと目が開いていく。