キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~

「……先輩?」

 背の高い如月くんが、身を屈めるようにして私の顔を覗き込む。
 今朝、ヘッドボードに追い込むみたいにして、こんなふうに顔を覗き込まれた。

 私のことが好きだ、と如月くんは言った。
 熱っぽく恋を囁いた。

 ――でも。

「今朝のことだけど」

 声のトーンを上げて、短く言い切る。

「私はもう、恋なんていらないから」

 わずかに目を見ひらいた如月くんが、口をひらこうとする。

 だけど、彼が何かを言う前に続けた。

「もう、好きなんて言わないでね」

 ひらり、と後ろ手に手を振って、如月くんとすれ違った。

 営業部門で残っている社員は、私と如月くんだけだった。自分のデスクまで戻って、ノートパソコンを閉じて、鍵付きの引き出しの中へ仕舞う。そうしてバッグを持って、エントランスのほうへ向かう。

「先輩、」

 如月くんの声と、焦ったような靴音。

「――いらないってば!」

 優しい言葉も、優しい手つきも、恋みたいなものなんて全部いらない。

 自分が投げつけた拒絶の残響から逃げるように足を早めた。
 カツカツとヒールを鳴らしながらオフィスを出て――頬が秋風に触れた途端に、涙がこぼれた。

 強気な靴音に、鼻をすする情けない音が重なる。

 ただ、私を信頼してくれるひとの期待に応えたくて、ひたむきに頑張ってきたつもりだった。
 頑張った結果――どうして、こんなにみじめな思いをしているんだろう。
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