キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
 ここ数日、小さなミスが続いている。書類の日付を書き間違えるとか、データの保存先を間違えるとか。どれもすぐに気づいて訂正したから、大きな問題には至っていない。

 問題は起きていないけれど、でも――最近の私は明らかにおかしい。

 部内ミーティングのためのレジュメの作成が終わって、オフィスラウンジの丸テーブルで、かなり遅めの昼食をとっていた。昼食といっても、栄養調整食品のクッキーとブラックのコーヒー。

 いつもはカフェモカだけれど、今日は、私を一切甘やかさないストレートな苦味が欲しかった。

 紙コップのコーヒーをひとくち含んで、目を瞑る。眉間を親指と人差し指でつまむ。目元が重たくて仕方がない――いや、身体全体が重たい。

 眉間を指で強めに押して、息を吐くと同時に目をひらく。飲みかけのコーヒーを呷るように飲んで、部署に戻ろうとした。

 立ち上がったところで、ラウンジのドアがあいた。
 入室してきた如月くんと、不可抗力に視線がかち合う。

 あの夜――喫煙室からの笑い声を聞いた夜。

 あの夜以降、如月くんとは会っていなかった。ご家族が入院されることになったという事情で、彼が特別休暇に入ったから。

 お疲れ。大変だったね。何か私にできることがあったら言ってね。――まっとうな言葉を、何とか口にした。大変な状況にあるひとをちゃんと気遣う余裕すら、今の自分には残っていないことに動揺した。

 如月くんの返事を待たずに、彼とすれ違おうとした。

 そのとき、社用スマホに課長からの着信が入った。
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