キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
「お疲れ様です、匂坂です」

 電話に出た瞬間、ひどく焦った課長の声が問う。

「匂坂さん今どこにいるの」

 オフィスラウンジにおりますが――そう答えかけて、顔から血の気が引いていく。

 先日リスケになった、東雲リゾートの江藤様との打ち合わせ。スケジュールを振り替えた先は――今日の14時半だ。

 左手首の腕時計が示す時刻は15時5分。あ、と取り落としたような息がくちびるからこぼれる。

「今……オフィスラウンジに、江藤様へはすぐにご連絡を」

 冷静さを取り繕おうとした声は、ひどく上擦って掠れていた。

「まだ社内なの!?」

「申し訳ございません、すぐに先方へ」

 お詫びをいたしますと言う途中で、すっとスマホが取り上げられた。

 取り乱す私の前で、如月くんがスマホを耳に当てる。

「お世話になっております、如月です」

 話しながら、スマホを取り返そうとする私を片手で制す。

「申し訳ございません。匂坂さんは、弊社の江藤と打ち合わせが入っていたのですよね」

 如月くんの落ち着いた声を聞きながら、私は違和感を覚える。

 お世話になっております? 弊社? ――課長相手に?

 困惑する私の前で、如月くんは続ける。

「弊社側の社内伝達が上手くいっていなかったようで……弊社代表取締役より今後について至急の確認事項があり……はい、リーダーの匂坂さんを、私が急遽お呼び立ていたしました……はい、弊社代表取締役の入院で、御社には大変なご心配をお掛けしております」

 穏やかに話す彼は、気負いのない声で告げた。

「しばらくは、専務取締役の私が東雲リゾートの社長代理となりますので……はい、今後とも何卒よろしくお願いいたします」
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