キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~

*2章* 駆け引きの眼差し

 電話を終えた如月くんからスマホを受け取った。私は目を見ひらいたまま、愕然とした気持ちで一歩後ずさる。

 東雲リゾート専務取締役、社長代理――まさか、如月くんが?

 だけど、確かに、東雲リゾートの現・代表取締役社長の名字は如月だ。
 でも、まさか――営業として一緒に働いていた如月くんが、クライアント企業の御曹司だったなんて。

 あ、と弱い息をこぼして、眼差しを伏せる。そうしたら、如月くんが慌てたような声で説明する。

「隠していてすみません。立場を明かすと、皆が俺の扱いに困ると思って」

 空間デザインの現場や営業としてのスキルを学ぶために、藤本社長にお願いして、こちらにお世話になっていました――そう続ける如月くんの声は、一生懸命に私に弁明している。

 まだ、私を慕ってくれる後輩の声で。

「……そっか」

 泣きたい気持ちで、自嘲するように笑った。
 笑みの名残の息が消えたら、くちびるを引き結んで、踵を揃えて、目の前の彼に向き直る。

「この度は御社の信頼を裏切り、誠に申し訳ございません」

 ――もう私は、あなたが慕ってくれた先輩じゃない。

 腰を折って、深く頭を下げた。

 取引先の役員がどんなふうに取り成してくれても、私のミスは帳消しにならない。
 私は、この会社の営業として失格だ。

 頭を下げている間に、如月くんからの言葉はなかった。顔を上げて、失礼いたしますと言い置いて、踵を返す。

 東雲リゾート様の改装案件、プロジェクトが本格始動する前にリーダーから降りよう。諸々の引継ぎが終わったら会社を辞めて――ちゃんと女性らしく、婚活をして結婚しよう。

 カツン、と靴音が響いたとき、

「――先輩」

 と、如月くんが私を引き留めた。
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