キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
振り返るつもりはなかったのに、手首を掴まれて、彼のほうを向かされた。
「気分転換に行きましょう」
コアタイムも過ぎてるし、今日はもう帰りましょう――なんて、いつも通りの声音で続ける如月くんに、ふるふると首を横に振る。
「帰らないよ……気分転換なんてそんな場合じゃない。私、課長に話が……」
「それって、絶対今日じゃないといけないことですか?」
あっけらかんと返されて、咄嗟に返答に窮した。
いつか、同じような台詞を投げかけられて、そのときも私は答えに窮した。
だけど、
「……今日じゃないと駄目」
今回は、彼の気軽さでうやむやにしてはいけない。
彼の手を解いて、部署へ戻るつもりだった。
「――それなら、匂坂さん」
如月くんが、声のトーンを変えた。穏やかで柔らかな雰囲気は消えて、如月くんの眼差しに鋭さが宿る。
「俺と、一緒に来てください」
私が何かを言う前に、如月くんが畳みかける。
「東雲リゾートの、専務取締役としての依頼です」
私の反論の余地を奪って、如月くんは不敵に笑った。