キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
「ここは、私たち東雲リゾートが誇る最高のレストランです」
私に向けられた眼差しは、子犬みたいに可愛い後輩じゃなくて、世界と駆け引きする御曹司の眼差しだった。
「……はい」
と、私は緊張した声で応じた。自然と肩に力が入った。
すると、如月くんは私を安心させるようにふっと表情を緩めて、手のひらで店内を示した。
お客様が入り始めた店内。予約席のプレートが置かれたテーブル。
「先輩が提案したこの空間で、今日も、たくさんの思い出が生まれます」
その言葉を聞いた瞬間に、目の奥がじわりと熱くなった。
咄嗟に俯く私へ、穏やかな――けれど堂々とした声が言う。
「東雲リゾートは、あなたの手腕に期待しています。あなたにしか提案できない、唯一無二のリゾート空間を見せてほしい」
視界のふちで、テーブルに置かれたキャンドルの灯が揺らめく。如月くんの声が、一切の手加減なく私まで届く。
「もし、今日のことを気に病んでいるのなら、是非、私たちの期待に応えてください。あなたに頼んでよかったと、私たちに思わせてください」
揺らめくキャンドルの灯が、涙の潤みに溶けた。
はい、と応じる声は掠れていた。
指先で目元を押さえる私に、丁寧に畳まれたハンカチが差し出される。
「ワインと食事を楽しみましょう。最高の時間をお約束いたします」
涙でにじんだ視界に、如月くんの余裕めいた笑みが映った。