キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
*1章* がらがらと崩れて
新しいプロジェクトのリーダーに任命されて、同棲中の彼氏とも婚約間近。
順風満帆だと思っていた。
細くあいたドアの隙間、暖色の間接照明と綯い交ぜになった、生々しい気配。
ドアノブに触れた指先がふるえた。だって、玄関先に華やかなミュールが脱ぎ捨てられていた時点で、結果なんて決まっていたから。
それでも、浅く息を吐いてドアをあけた。その瞬間、幸せだった世界が、がらがらと音を立てて崩れ落ちた。
華奢な肩に、私が恋した男のシャツを羽織っていたのは——他でもない、私の妹。
妹は——結衣は、ベッドの上でひどく取り乱している翔太の肩にもたれながら、ルージュの落ちたくちびるで笑う。
「ガツガツしたおばさんより、若くて素直なあたしのほうがいいんだって」
あどけなくも聞こえる、可憐な声。
勝ち誇った結衣の笑みから逃れるように、眼差しを伏せた。
そうして、低い声で翔太に問い質す。
「……じゃあ、私とは別れるってことね」
「えと……そう、……うん」
しどろもどろの声で、翔太が応じた。
私はぎゅっとくちびるを噛んだ。何かを言い返したかったのに、何も言うことができなかった。
互いのイニシャルの刻印入りの、右手薬指のペアリング。乱雑に外して、翔太に向かって投げつけた。
逃げるようにマンションを出た後は、オフィスカジュアルのパンツスタイルと3センチヒールのプレーンなパンプス。それに仕事用のトートバッグで、街灯の下に立ち尽くした。
一歩、靴先を進めれば涙がこぼれた。
誰にも見られたくなくて、ぎゅっと握りしめた拳で涙を拭った。
カツカツとヒールを鳴らしながら夜を歩いて、駅前のビジネスホテルに一泊した。