キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
 フォークのシルバーが朝の眩さできらめいて、カップから立ち上る湯気が柔らかくたゆたう。

 如月くんが淹れてくれたカフェモカ。コーヒーの苦味と、ミルクとチョコレートシロップのまろやかな甘さ。こくり、と飲んだら、身体全体に温もりがひろがる。

 ゆっくりとカップを置いたなら、向かいに座る如月くんと目が合う。
 彼がちいさく微笑んだ。それだけで、変にどぎまぎしてしまう。

「目玉焼き、今日も美味しかった」

 如月くんからほんの少し眼差しを外して、微笑む。

「よかった」

 眦をくしゃっとして笑う如月くん。今日は――子犬みたいな日。

 朝食を済ませたあと、食器をシンクに運んだ。私が帰宅後に洗うことになっている。はっきりと担当を決めているわけではないけれど、それが、何となくの役割分担。

 翔太と暮らしていたときとは違うシステム。同棲中は、私が家事をやるのが当たり前だったから。

 ルームシェアって、何だか不思議な感じ。

 私の部屋――ということになっている南向きの洋室で、メイクや身支度を整える。いつも通りの、オフィスで働く私になって、

「行ってきます」

 ちょうど、彼の部屋から出てきた如月くんに挨拶をする。いつもの格好の私なら、彼に対するぎこちなさは少ない。

 でも、「お疲れさま」じゃなくて「行ってきます」なのは、やっぱり変な感じ。

 ドアノブに手を触れさせたところで、

「あ、俺。今日ちょっと、遅くなります」

 ネクタイを結んでいる如月くんから声が掛かる。

「わかった」

 と、彼を肩越しに振り返って、少し笑う。

 そうして、かちゃりとドアをあけながら、後ろ手にひらりと手を振った――左手の薬指で、ダイヤモンドがそっときらめく。
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