キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
 今夜のメニューは、チキンソテーとポトフにした。洋食だけど、気負いのない普段の夕食だから、カトラリーじゃなくて箸とカレー用のスプーン。向かい合って座って、箸を動かしながら、何でもない話をする。

「だけど、妹はね」

 なんて思わず口にしたのは、如月くんが、私が作った料理をあんまりにも褒めてくれるから。

 だけどそれを口にした瞬間、脱ぎ捨てられていた華やかなミュールを思い出した。

 言葉が不自然に途切れた。
 一秒未満の間合いのあと、何もなかったふうを装って、言葉を取り繕う。

「妹はね、もっと凝った料理を作ったりするよ。ビーフストロガノフとか、ラザニアとか。私が作る料理は大雑把だから」

 苦笑いを作って、ポトフのにんじんを口に運ぶ。

 如月くんは、不自然な間合いに気づいたはずだ。

 だけど、何にも気づいてない顔をして、

「料理が得意な妹さんなんですね」

 何でもない話の一部にしてくれた。だから、少しだけ心が緩んでしまった。

「そう……結衣って、言うんだけどね。結衣は、何でも丁寧に頑張る子で……とっても良い子で、」

 でも、と続ける声が暗く沈んだ。

 うそつき、と私を詰る、幼い結衣の声が耳の奥で響く。

「でも……私はたぶん、良いお姉ちゃんじゃなかった」

 ――ぽつり、と暗い雲から落ちる雨みたいな声。

 それが自分の耳に届いて、はっと目を瞬く。
 せっかく如月くんが何でもない話にしてくれたのに、私は何を言っているんだろう。

 視線を揺らめかせて、他の話題を探そうとした。

 だけど見つからなくて途方に暮れたとき、如月くんが口をひらいた。

「先輩がどんなお姉さんだったのかは、俺にはわからないけど」

 穏やかな声で、如月くんが続ける。

「年下として、俺は先輩に憧れてましたよ」

 私を見つめる彼の眼差しに、照れた様子は一切なかった。
 私の方が気圧されて、

「……そっか」

 とだけ短く応じた。

 食事を終えて、食器をシンクまで運んだとき――ああまた、ありがとうを言いそびれたと後から気づいた。
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