キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
「……如月、」

 宮西さんが、腰の引けたような声で呟く。

 如月くんが私の横に立って、宮西さんへ友好的な眼差しを向ける。すると、私の手首を掴んでいた宮西さんの手が、おずおずと引っ込められた。

 如月くんは、宮西さんに向かって丁寧に会釈をした。

「いつも大変お世話になっております。先日は簡単なご挨拶だけで、誠に失礼いたしました」

 先日――というのはたぶん、宮西さんと暮らしていたマンションに、私の荷物を取りに行った日。私に付き添った如月くんは、会社の後輩としての笑顔で、「お疲れ様です」とにこやかに挨拶をしていた。

 今も、にこやかで友好的なのは同じ。
 だけど――今。
 如月くんの振る舞いすべてに、相手を威圧する冷ややかさがある。

「お話が聞こえてしまったのですが、」

 あくまでも穏やかに前置きをして、如月くんが問いかける。

「匂坂さんの提案がコンペで採用されるのは、彼女が女性であり、また、容姿が女性として優れているから……宮西さんのご認識は、こちらで間違いありませんか?」

「……いや、その、」

 しどろもどろの宮西さんは、困窮した様子で目を逸らした。その瞬間に――弁明の機会を失った。

「承知いたしました。では、」

 如月くんが、笑みを深める。いっそ優しくも聞こえるほど穏やかな声で、続ける。

「匂坂さんに案件をお任せしている、私ども東雲リゾートへの侮辱と受け取って……差し支えありませんね?」

 ――刹那、宮西さんの表情が凍りつく。

「……いやっ、そういう訳じゃ……!」

 宮西さんが、慌てた様子で口をひらく。今になってようやく、何かを弁明しようとしている。

 そんな宮西さんを一瞥したのち、如月くんは川面へと視線を投げた。

「来週は、御社の創業記念日ですね」

 宮西さんに弁明の余地を与えず、如月くんが笑う。

「藤本社長にも、お祝いをお伝えするつもりです。今後とも、御社とは良好なパートナー関係を維持していきたいと、心より願っております」

 ひどく青ざめた宮西さんが、縋るような目で私を見る。

「行きましょう。――玲奈さん」

 如月くんに促されて、私はきっぱりと踵を返した。宮西さんの眼差しから庇うようにして、如月くんが私の肩を抱く。
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