キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
だけど――。
ピピピ、と鳴り響いた軽やかなメロディが緊張を弛ませる。
「あ、……ごめん、どうぞ」
メロディは、如月くんのスマホの着信だ。
左手首のスマートウォッチを一瞥した如月くんは、表情をわずかに険しくする。
「すみません、仕事です。……失礼します」
スラックスのポケットからスマホを取り出すと、私から離れながら電話に出る。
いくつか言葉を交わした如月くんは、手短に電話を終えると、申し訳なさそうな顔で戻ってきた。
「すみません。ちょっと会社に行かなきゃいけなくなって」
顔つきが険しいから、何かトラブルが起きたのかもしれない。
「もちろん。行ってらっしゃい」
私は気軽な声で、如月くんを送り出した。如月くんは、「日付が変わるまでには帰ります」と言い置いて、早足で会社へ向かっていった。
先にマンションへ帰宅した私は、ありあわせのメニューで簡単に夕食を済ませた。如月くんの分を冷蔵庫に入れて、洗い物まで済ませる。
入浴を終えたあとは、リビングで電子書籍の雑誌を眺めた。日付が変わる前に帰るという話だったから、おやすみだけでも言ってからベッドに入りたかった。
だけど、日付が変わって1時になっても、如月くんは帰ってこなかった。
切なげな秋の室温を引きずって、自室に戻った。ひとりきりのマンションで眠った。そうして、目を覚ました眩い朝。
朝――私の出勤と入れ替わりに帰宅した如月くんは、花みたいな甘い香りをまとって、シャツの襟元にルージュの痕をつけていた。