キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
*5章* ルームシェア終了
玄関で対面した如月くんは、目が合った瞬間、気まずそうに視線を逸らした。
「……酔った相手に絡まれてしまって」
ルージュがついた襟元を隠すように、親指を当てる。
どくん、と低い心音が響く。胸の内側へ、鈍い痛みが沈んでゆく。
「……そっか。大変だったね」
私は無理矢理に笑顔を作って、つま先をパンプスに差し込んだ。彼から眼差しを外して、すれ違おうとする。
「――待って!」
強い力で手首を掴まれた。驚いて振り返ると、はっとしたように如月くんが手を離す。
私の手首を掴んだ手のひら、その指先を力なく握りこみながら、如月くんが私を見つめる。
「違います……仕事でした、誤解しないで」
必死の息遣いで、如月くんが訴える。
私は勢いに気圧されて、ぽかんと中途半端にくちびるをひらく。揺らめくみたいに不安定な沈黙ののち、
「……わかった」
と、私が頷けば、如月くんは心底ほっとしたような顔をする。
その表情を見た途端、胸の内の鈍い痛みがほどけてゆくのを感じた。
ぎこちない間合いが一秒。そののちに、彼の目を見上げて微笑む。
「行ってくるね」
「はい。……あ、」
如月くんが声を上げたから、靴先を戸惑わせて、もういちど彼を振り返る。
「昨日、何か言おうとしてました?」
少し緊張したような如月くんの面持ち。彼が今、何を考えているのかは私にはわからない。
私はひとつまばたきをして、
「今日帰ったら、言うね」
できるだけ気軽に聞こえる声で、そう答えた。
仕事用のトートバッグの肩ひもをぎゅっと握って、今度こそ玄関を出る。
ぱたん、と背中側でドアが閉まる。
――かつん、と響いたパンプスの音が、心なしか軽やかに聞こえた。
「……酔った相手に絡まれてしまって」
ルージュがついた襟元を隠すように、親指を当てる。
どくん、と低い心音が響く。胸の内側へ、鈍い痛みが沈んでゆく。
「……そっか。大変だったね」
私は無理矢理に笑顔を作って、つま先をパンプスに差し込んだ。彼から眼差しを外して、すれ違おうとする。
「――待って!」
強い力で手首を掴まれた。驚いて振り返ると、はっとしたように如月くんが手を離す。
私の手首を掴んだ手のひら、その指先を力なく握りこみながら、如月くんが私を見つめる。
「違います……仕事でした、誤解しないで」
必死の息遣いで、如月くんが訴える。
私は勢いに気圧されて、ぽかんと中途半端にくちびるをひらく。揺らめくみたいに不安定な沈黙ののち、
「……わかった」
と、私が頷けば、如月くんは心底ほっとしたような顔をする。
その表情を見た途端、胸の内の鈍い痛みがほどけてゆくのを感じた。
ぎこちない間合いが一秒。そののちに、彼の目を見上げて微笑む。
「行ってくるね」
「はい。……あ、」
如月くんが声を上げたから、靴先を戸惑わせて、もういちど彼を振り返る。
「昨日、何か言おうとしてました?」
少し緊張したような如月くんの面持ち。彼が今、何を考えているのかは私にはわからない。
私はひとつまばたきをして、
「今日帰ったら、言うね」
できるだけ気軽に聞こえる声で、そう答えた。
仕事用のトートバッグの肩ひもをぎゅっと握って、今度こそ玄関を出る。
ぱたん、と背中側でドアが閉まる。
――かつん、と響いたパンプスの音が、心なしか軽やかに聞こえた。