キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
 如月くんに抱えられて、自室まで連れていかれた。壊れ物を扱うような手つきで、慎重にベッドへ下ろされる。

「飲み物、持ってきますね」

 そう言い置いて、如月くんは私から遠ざかろうとする。咄嗟に、彼のジャケットの袖を捕まえた。ぴん、と張った布地から、彼の戸惑いが伝わってくる。

「まだ、……行かないで」

 声は、不安定に揺らめいた。私を振り返った如月くんは、

「どこにも行きませんよ」

 優しい眼差しをして、ベッドの縁に腰掛けた。

 秒針の響きが、ぎこちない沈黙へひとつずつ沈む。如月くんの温度を知ったくちびるに、そっと人差し指を当てる。

 すると、私のほうを見ないまま、如月くんが問うた。

「さっきの、契約違反ですか?」

 抑揚のない声だった。

 私は、くちびるに触れさせた指をそっと握りこんで、緩く首を横に振る。

「……ううん。そういうのじゃないって、わかってる」

 あの行為は、私の呼吸を落ち着かせるためのもの。それ以上でも以下でもなくて――けっして、愛に準ずる行為じゃない。

「……よかった」

 と、如月くんが呟く。安堵したような、柔らかな息遣いで。

 それが耳に届いた瞬間に、胸がぎゅっと苦しくなった。目を眇めて、如月くんの背中を見つめる。
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