キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
 ――秒針の響きが、もうひとつぶん世界を進めた。

 私は目元の涙を拭って、

「顔を洗ってくるね」

 そう言って、如月くんとすれ違おうとした。

 だけど――、

「先輩、」

 強引めいた力で、手首を掴まれた。そのまま彼を振り向かされて、うなじを押さえつけられるようにして、上を向かされる。

 彼の影が、視界を覆う。その次の刹那で――くちびるが重ねられる。

「……んっ、」

 息遣いを奪うような、激しいキス。柔さと柔さが綯い交ぜになって、私たちの熱が溶け合う。
 彼のシャツに縋る指先が、びくんと緊張する。

 膝ががくんと崩れて、立っていられなくなったところで、如月くんは私を解放した。
 足元が不安定な私を抱き留めたまま、如月くんが告げる。

「契約は解除します」

 とくん、と私たちのさなかで心音が響く。
 私を抱きしめる力を強めて、如月くんは続けた。

「俺が見合い話を断りたかったのは、先輩以外の誰とも結婚したくなかったから」

 だから、もう、俺にとって契約のメリットはありません。

 静かな声でそう言った如月くんは、ややあって、私を抱きしめる腕の力を緩める。

 片腕で私を支えながら、反対側の手で私の髪を丁寧に梳く。そのまま少し上体を屈めて、私の額にキスをした。

 微かな笑みの気配とともに、如月くんが囁く。

「先輩のことが、好きです」

 ――あなたのことを、愛しています。

 ふたりきりの世界へ、愛の言葉が着地した。

 私たちの期間限定ルームシェアは、こうして幸せに終わりを告げた。
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