Happily ever after


真っ先に目に飛び込んだのは、タキシード姿の裕樹と、豪華なウエディングドレスを見に纏い微笑む知らない女だった。
インスタの投稿文には、こう書いてある。


〝かねてよりお付き合いしていた野上さつきさんと結婚いたしました。2人で協力して、幸せに満ちた家庭を作ります〟


結婚指輪を嵌めた2人の手の写真、ファーストバイトの写真、友人たちに花びらを撒かれる中歩く2人の写真、見たくないのに、スクロールする指が止まらず、優子はアップされている写真すべてに目を通した。


「片瀬さん、どうかされましたか?」


心配そうに声をかける山崎に返事をしようとした時、唐突に視界がぼやけた。
ぼやけた視界はすぐにクリアになったが、目の前の大理石のテーブルにいくつもの水滴が生まれていた。
この水滴は今自分が流した涙なのだと自覚した瞬間、優子は居た堪れなくなった。


「すいません、なんでも……」


声まで震え始め、咄嗟にハンカチで口元を覆う。
優子の異変を感じ取った山崎は、狼狽えることなくレモンパイとコーヒーを勧めた。


「何かあったんですね。ここじゃ人目があるから込み入った話しはしにくいでしょう。さっき屋上を見かけたので、デザートを食べたら移動しませんか?」

「あ、はい……」

「お会計済ませてきますね。あ、食べられないなら無理はしなくて良いですからね。胃袋ブラックホールの俺に押し付けてください」


キビキビとした動作で席を立つ山崎の背中を見送り、優子は無理矢理レモンパイを飲み込んだ。
しかし今見たもののショックは思いの外大きかったようで、二口目を口に入れることは出来なかった。

戻ってきた山崎は、半分以上残っているレモンパイを豪快に掻き込んだ。
咀嚼もほどほどに水で流し込み、優子にジャケットを着せて荷物を持つ。
そのスマートさはエスコートというより、手のかかる子どもの面倒を見ている親の動きに近い。


「忘れ物はなさそうですね。じゃあ行きましょう」


デート相手が横に並ぶのではなく、先を歩いているという状況は、人生で初めての経験だ。
普段なら男性にマウントを取られているように感じて不快になっている。
だが今日は、弱っている今は、前を歩く背中が自分を庇っていてくれているように思えて、不快感を覚えるどころか頼もしく思ってしまう。

屋上に着いた時、優子は心の底からほっとした。
幸いなことに、今ここには自分たち以外の人間はいない。




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