Happily ever after

美味しいものを気の合う友人と食べる。
なんだかんだで、1番の心の栄養はそれなのだ。

それなりに酔いが回っていた優子は、帰りは奮発してタクシーを呼んだ。
就職が28歳と遅かったためまだ貯金はそんなに無いが、最近はたまに贅沢をする余裕が出てきた。

舌の上でとろけた和牛や、口内でプチッと弾けるいくらを思い出し、幸せな気分に浸る。
集まる時の店選びはだいたい真奈佳に任せているのだが、さすがは現役モデル。
今日の店も美味であった。

なんだかんだで良い一日だった。
朝のブルーな気分はどこかへ吹き飛び、ご機嫌にタクシーに乗る。


「どちらまで行かれますか?」


そう尋ねる声があまりに美しくて、吸い寄せられるように優子は運転手を見つめた。

柔らかいがよく響くテノールボイスはまるで声優のようで、耳に心地良い。
さらに、顔も良い。
くっきりした二重は目力があり、通った鼻筋や薄い唇はノーブルな雰囲気を醸し出している。

声と顔、両方の美しさに呆気にとられ、返事がワンテンポ遅れた。


「……あ、ええと、千川駅まで」

「かしこまりました」


柔らかい微笑みは営業用なのはわかっているが、それでも美しい。
恵比寿から自宅の最寄りまで、約30分かかる。
イケメンを30分眺めていられるなんて、今日はつくづく良い日だ。


「今日はどこかお出掛けされていたんですか?お召し物が素敵なので」

「職場の後輩の結婚式でした」


優子の答えに、運転手はびっくりしたような顔で固まっている。
赤信号で停まっているうちに、優子はネームプレートに目線を走らせた。

彼の名前は、山崎健吾というらしい。


「失礼しました。お客様があまりにも若々しいので、少々驚いてしまいました」

「昔から童顔なんですよ。22歳くらいにしか見えないでしょう?」

「いやー、私にはもっと若く見えますよ。18、19歳くらい。お酒の匂いがするので、20歳は超えているだろうなとしか……失礼ついでに、今おいくつですか?」

「31です」


さらにびっくりした顔で言葉を失っている彼は、きっと素直な性格なのだろう。
リアクションが大きいが、わざとらしくなくて良い。


「え、ええ!?いや、えええ」


感嘆詞しか出てこない彼の反応がおかしくて、優子はクスクス笑った。


「そんなに驚きますか」

「驚きますよ!女性の年齢は見た目からじゃ分かりませんね」

「運転手さんは今何歳なんですか?」

「私ですか?今年35になります」


今度は優子が感嘆の声を上げた。






< 3 / 26 >

この作品をシェア

pagetop