おやすみなさい、いい夢を。
……最後の、一時退院。
自分でそう言ったはずの言葉が、今になって胸の奥に重くのしかかる。
落ち着いた。数値も安定している。
……そう言えば聞こえはいいが、実際は“嵐の合間”に過ぎないことくらい分かっている。
ほんの束の間、外の空気を吸わせてやるための“猶予”でしかない。
それをわざわざ言葉にして渡す自分が、残酷に思える瞬間がある。
理緒はきっと喜ぶだろう。
友達に会って、制服を着て、普通の高校生みたいな一日を取り戻そうとするだろう。
……それでも、きっと同時に俺が何も言わなくても、
これが最後かもしれないと勘付く。
――本当に、子どもの担当なんてしたくなかった。
逃げられない立場なのは分かっている。
自分がやらなければ誰がやる、そう思って引き受けてきたはずなのに。
それでも、心のどこかで願ってしまう。
もうこれ以上、若い命の終わりに立ち会いたくないと。
患者が苦しめば、自分も同じ分だけ削られていく。
夜の静寂にモニターの音だけが響くたび、
無力感で、心臓の奥がぎゅっと掴まれるように痛む。
――俺は、どれだけ祈っても救えない。
そんな現実を、また一人分、積み重ねていく。