おやすみなさい、いい夢を。


……告別の日に棺に眠る理緒は、
今まで見たどんな彼女よりも安らかな顔をしていた。

白い花に囲まれて、
少し微笑んでいるようにも見えるその表情が、
かえって現実味を遠ざけていた。

最近の彼女を思い出すと、
一番に浮かぶのは、
痛みに耐えて眉を寄せた顔だった。

それでも、笑おうとしてくれていた。
私を心配させないように。

……やっと、楽になれたのかな。
……苦しまずに、行けたのかな。

そう思った瞬間、
胸の奥で何かが小さく音を立てて崩れた気がした。

涙は出なかった。
泣いたら、もう本当に“終わってしまう”気がしたから。

代わりに、そっと彼女の指先に触れた。
冷たくて、軽くて、
まるで壊れてしまいそうだった。

「……おやすみなさい。理緒」

声に出したら、ようやくほんの少しだけ、
息が詰まった。


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