おやすみなさい、いい夢を。
決別 Hinata Side.
最後の瞬間というのは、
いつだって突然だった。
理緒も、例外ではなかった。
夜勤の静けさを破るように、
PHSが短く震えた。
「——先生?宮崎理緒ちゃん急変です!SpO₂低下、意識レベルーーーJCS300!」
その一文を聞いた瞬間、
体が勝手に動いた。
走る。
廊下を駆け抜ける音だけが響く。
胸の奥で心臓が脈を打つたびに、
呼吸がうまくできなくなっていく。
病室に入った瞬間、
あらゆるモニターがけたたましく鳴っていた。
人工呼吸器のアラーム。
心電図の警告音。
看護師たちの短い指示が飛び交う。
「昇圧剤、追加!」
「心マ開始します!」
——間に合え。
何度もそう願いながら、
自分の手が自動的に動いていくのが分かった。
呼吸音、脈拍、血圧。
すべてが数値で崩れていくのを、
ただ必死に食い止めようとする。
それでも、
次第に音が遠のいていく。
目の前の心電計が、
静かに一本の線を描いた。
そのフラットを見つめて、
ようやく理解した。
——あぁ、終わったんだ。
指先の感覚が薄れていく。
胸の奥の何かが、すっと抜け落ちた気がした。
一拍、呼吸を置いてから、
声を出した。
「……ご家族、呼んで。説明する」
その言葉が、
やけに遠くから自分の口を通して出ていくように感じた。
医者としての習慣で言っただけ。
もう何をしても結果が変わるわけではないことを、
誰よりも自分が分かっていた。