隠れ許嫁は最終バスで求婚される

「バスの運転手やってるのはじいさまのときのコネ。大型二種持ってるし、路線バスならシフトの融通きくからおふくろと交代で介護の手伝いもできるってわけ」
「そ、そうなんだ」
「あと、車の運転嫌いじゃないからね。給料は下がるけどそのぶん自由な時間が増えたよ」
「へえ」

 お兄ちゃんは上京した後に運送会社に就職してから第二種免許を取得し、職場を転々とした後に大型トラックで音響機材を運搬する仕事についていたのだという。

「俺にしては飽きずに三年くらい続いたかな。全国各地のイベントやコンサートの会場に機材を運ぶ仕事だったから旅行気分味わいながらあちこち行ったんだよね。ライブメンバーと一緒に行動できて楽しかったけどそのぶん拘束時間が厳しくて体力的にもちょっと大変だった。もう三十歳なのにプライベートの時間がほとんどなかったし。で、契約更新するか悩んでいたところで呼び戻されたから今度はバスの運転手になったってわけ」
「お兄ちゃん三十路か」
「一気におじさんっぽくなるからやめて」
「いいじゃん。あたしだってもう二十五だよ。お父さん生きてたらぜったい『結婚はまだか!?』って騒いでたと思う」
「たしかに」
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