隠れ許嫁は最終バスで求婚される
あたしの父親が病気で亡くなったのは大学二年のときだ。父は一人娘のあたしが進学で家を出ることにも渋い顔をしていたけれど、なぜかお隣のお兄ちゃんとは仲が良かった。お兄ちゃんが成人式で戻ってきたときに一緒にお酒を飲んでいたのを見たことがある。ほんとうは男の子が欲しかったんじゃないかなとすこしだけ胸が苦しくなったのを覚えてる。そんな父は病気が判明した時にはすでに取り返しのつかない状態だったというのに、家族以外には最期まで黙らせていた。寡黙で頑固で、それでいて家族には優しかった。
お兄ちゃんはお通夜に顔を出してくれたけどそのときのあたしは取り乱した母を宥めるので手一杯でゆっくり話をする暇もなかった。あのとき二十五歳だったお兄ちゃんが三十歳になって地元のバスの運転手をしているなんて思いもしなかった。お互いに年を取ったものだ。
「モネちゃんはいま何してるの」
「大学出てからは食器会社にいるよ。百貨店の催しや道の駅に出す土産物を工場から手配したり、工場の事務作業とか地味なことしてる」
「そういえば焼きものの会社だってお袋言ってたな」
「おばさんそんなこと言ってたんだ」
「まあ、モネちゃんのことは気がかりだったからね」
さらりと口にするお兄ちゃんに思わず頬を膨らませてしまう。気がかりだと言ってはいるけれど、その気のかけ方は妹のようなものでしかないのだ。
父の葬儀のときは一瞬だけ顔を合わせたけど、そのときのあたしには彼氏がいたし、向こうも忙しそうにしていたから連絡先を交換することもなかった。どうせすぐまた逢うことになるだろうし……そう思ったら五年も経っていた。