隠れ許嫁は最終バスで求婚される
「そろそろいい結婚相手見つかったかな、とか、俺に赤ん坊抱っこさせてくれるかなぁ、とか」
「飛躍しすぎ! 残念だけど相手いないから!」
「だよなー、同棲相手に裏切られて最終バスに乗り込んで寝過ごしてるモネちゃんだもんねー」
「悪かったですね! そういういっきお兄ちゃんこそ相手いないの?」
「いるわけねーだろ。長距離の仕事してるうちは家庭なんか持てないって諦めてたし」
「じゃあ今は?」
「この辺鄙な田舎のバスの運転手に喜んでお嫁に来る女のひとなんかいると思う?」
「――いるじゃない、ここに!」
「……モネちゃん、さっき振られたばかりだからってヤケになってない?」
「なってません! お兄ちゃんがお嫁さん募集中なら喜んでなります!」
売り言葉に買い言葉、のようなノリで立候補してしまった。そこまで食いついて来るとは思わなかったのだろう、おにいちゃんが困惑した表情であたしを見ている。電源の落ちた薄暗いバスのなかで朝までふたりきり。それだけで気まずいのに告白なんかしたら止められなくなってしまう。