隠れ許嫁は最終バスで求婚される
   * * *


「……お兄、ちゃん?」
「まさか、桧林(ひばやし)さんとこの百寧(モネ)ちゃん?」

 幽霊かと思った女性はまさかの幼馴染の女の子、モネちゃんだった。なんで最終バスの終点にひとりで乗ってるのか問い詰めればおおきな瞳を瞬かせて泣きそうな顔になってしまった。

「なんで泣く!?」
「まだ泣いてないよ泣きそうになっただけ!」

 瞳を潤ませながらこれまでのいきさつを説明してくれた彼女を前に、変わらないなぁとなぜか安心してしまう。とはいえ内容は笑える話ではないのだが。

「……だからそんな心もとない格好でバスに乗ってたの?」
「真夜中のハイキングにでも行くかと思った?」
「この先にある自然公園のキャンプ場なら夏休みいっぱいで今年の営業終わってるから十八時でゲートも閉まってるぞ」

 かつてじいさまが所有していた山は分割され、一部が民間の自然公園として営業されているが、キャンプシーズンが終わったためゲートも閉められている。管理人がいるにはいるのだが、この時間だとすでに誰もいないだろう。だからといって彼女を終点で降ろしていいものか悩み始めている自分もいた。
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