隠れ許嫁は最終バスで求婚される

「俺はこのあとバスをとめて営業所で仮眠取るつもりだけど」
「だったら」
「かわいいモネちゃんを男だらけの営業所に連れ込むわけにはいかないよ。だったらこのバスで一緒に一晩過ごす方がぜんぜんマシかな」
「……え」
「俺は何も知らないふりをして車庫(ここ)にバスをとめて、翌朝同じバスで運転を開始する。降ろし忘れた乗客がいるなんてバレたら大目玉だけど……バレなきゃ問題ない、だろ?」

 そうと決まれば善は急げだ。俺は営業所で待っているであろう同期に電話をし、何食わぬ顔でバストラブルを報告する。今夜は戻らず翌朝そのまま運転する旨を告げればあっさり承諾される。モネちゃんはそんな俺を訝しそうに見つめている。そりゃそうだろう、とつぜん幼馴染のお兄ちゃんにバスで一緒に一晩過ごそうなんて言われたのだから。
 けれど俺が念のためにバスの電源を落とし、仕事鞄から懐中電灯や毛布を取り出せばどこかわくわくした表情になっていた。懐かしそうに声を弾ませている。

「なんだか昔を思い出すね」
「お盆の肝試し大会のこと?」

 モネちゃんの口から「昔」と出てきたことが嬉しくて、俺も過去に想いを馳せる。蝉しぐれが響く夕刻からはじまる晩夏の肝試し。従兄たちが大人をけしかけて近所の子どもたちと一緒に本気で化かし合ったものだ。最年少のモネちゃんは常に俺に引っ付いてはきゃあきゃあ騒いでいたっけ。
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