隠れ許嫁は最終バスで求婚される
「あったねえ。モネちゃんも『いっき兄ちゃんがお化けになっちゃったぁ~!』ってギャン泣きしたっけ」
「泣いてないもん」
「いんや、泣いてた。だからお化けじゃないよって抱きしめてよしよししてあげたじゃないか。お化けは透明で冷たいからモネちゃんをぎゅーできないんだよって」
「恥ずかしいこと思い出させないでよぉ!」
「あの頃のモネちゃんは可愛かったなぁ」
「悪かったわねいまのあたしは可愛くなくて」
それだから同棲中の彼氏に裏切られて終バスに乗って寝過ごしてこんなことになってるんです、とふて腐れた表情の彼女を見てゾクリとする。結婚を約束していたというが、口約束だけだから無効だよと唇を尖らせている。いまだって充分可愛い。こんな彼女を棄てるなんて、彼氏はもったいないことをしてるなと心のなかで苦笑する。
「いまだって充分可愛いよ。だから放っておけないんじゃないか」
「ほんとう?」
「こうして再会できるとは思わなかったなぁ……桧林の家、いま誰も住んでないし」
「おばさんに聞いたの? そうだよ」