隠れ許嫁は最終バスで求婚される
逆効果だった。いまにも泣き出しそうな彼女の訴えに、俺は言葉を詰まらせる。
「……モネちゃん、さっき振られたばかりだからってヤケになってない?」
「なってません! おにいちゃんがお嫁さん募集中なら喜んでなります!」
電源を落とした薄暗いバスのなかでふたりきり。吊り橋効果のようなものかもしれないと焦る俺の前で彼女はさらに煽り散らす。
「いっきお兄ちゃんはあたしの初恋だよ。年齢が離れてるからどうせ妹にしか思われないだろうってこの気持ち封印してた。諦めて年齢の近い男のひととつきあってみたりしたけど、いつもダメだったんだよ。引っかかるのは悪いオトコばかり。お兄ちゃんのせい……ンっ!」
初恋? そんな優しい言葉で思い出にしたらいけないよ。
俺はまだ、思い出にすることができていないのだから。
彼女の本気を試したくて、思わずキスしてしまう。あたたかくて柔らかい唇が、俺を欲情させる。
「シー。大きな声出したらバレるぞ」
「ンっ」
「モネちゃんがイヤならやめるけど。続けてもいいってことだな?」
「え」
「いまからモネを俺だけのモノにする、ってこと」
「ふぇ?」
きょとんとした顔の彼女が信じられないと頬を真っ赤にする。まるでこれから起こることが何か理解しているみたいだ。
もう一度、キスをしてから俺は求婚する。
「結婚しよう」
「……うん」
最終バスで、求婚するなんて思いもしなかったけれど、モネは素直に頷いてくれた。
言質はいただいた。
ならばとっとと既成事実を作って外堀を埋めてしまおう。