隠れ許嫁は最終バスで求婚される
 たしかに黒戸のおばさんに実家の合鍵を渡しているから、彼がこうして入ってくるのも別におかしなことではないのだが。

「あたしが怖がりなのお兄ちゃん知ってるでしょ――?」

 あたしがぷうと頬を膨らませながら言葉を紡げば、遮るように唇を塞がれる。

「んっ!?」
「お兄ちゃんじゃない、って言っただろう?」
「ん……かずき、さん」
「モネが俺のことをお兄ちゃんと呼んだらこうやってキスで塞ぐから。わかった?」
「え」

 一方的な彼の決定事項にあたしは辟易する。黒戸のおばさんやおじさんの前でもそうするのだろうか。あたしが不服そうな顔をしているからか、一季さんはもう一度あたしの顎に手を伸ばして唇を奪っていった。そのまま畳のうえに押し倒される。畳のきしむ音が妙に耳に残る。バスのなかで身体を寄せ合ったときの記憶が否応なしに蘇って、あたしは赤面する。
 あのときはバスの運転手の制服を着ていたけれど、いまはラフなシャツとハーフパンツ姿で筋肉質のがっしりとした身体つきが露出していて、なんとも心臓に悪い。
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