隠れ許嫁は最終バスで求婚される

   * * *


 午後。一季さんが持ってきたお弁当を実家で食べてから、あたしたちは黒戸家の門をくぐった。
 子どもの頃は当たり前のように見ていた彼の家。だけど改めて見ると玄関の瓦屋根も、荘厳な和風建築も、樹齢何百年にもなりそうな庭の木々も、幼い頃に見たよりずっと立派に見える。
 この地域の大地主だった黒戸のじいさまが亡くなったのはあたしが中学生になる前の年だ。そのときに所持していた山をはじめたくさんの土地を手放したという噂は聞いていたが、本家と分家が管理している土地は相変わらず広大で、あたしの実家がちっぽけなものに見えてしまう。桧林の家もかつては山で林業を営む一族が先祖で、近隣に親戚も暮らしていたが、祖父が亡くなったのと従兄の進学を機に都会へ越してしまった。ひとまわり年上の従兄、(けい)と遊んだ記憶はほとんどない。せいぜいお盆の肝試しでお化け役をしていたかな程度。だけど一季さんはそれ以外にも遊んでもらったことがあるみたいで、いまも年賀状のやりとりをしていると言っていた。
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