隠れ許嫁は最終バスで求婚される

「慶兄のとこの双子ちゃんたち、今度小学生になるらしいぞ」
「そうなの? 社会人になってから連絡とってなかったからな……つい最近生まれたばかりだと思ったのに」
「結婚式に呼べばいいんじゃないか」
「来てくれるかな」

 黒戸家の門前でドキドキしていたあたしの緊張をほぐすように、一季さんが従兄の子どものはなしをしてくれる。慶兄は大学を出て比較的早く結婚しているが、子宝に恵まれたのは三十歳を過ぎてからだ。両親は結婚式に参加していたが、当時のあたしは中学校の部活の試合と重なって留守番していた切ない記憶がある。写真を見て素敵だなと、いつかいっきお兄ちゃんもこんな風に素敵なお嫁さんと結婚しちゃうのかなと上京したばかりの一季さんのことを想ってすこしだけ絶望していたものだ。
 ――まさか自分が彼のお嫁さんになるなんて。

「モネ、まだ緊張してるの?」

 横顔の笑みが穏やかすぎて、逆に心臓が跳ねる。落ち着け、落ち着け。今日は“彼の婚約者”として隣にいるのだから。
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