隠れ許嫁は最終バスで求婚される
「あなたのおじいさまと、うちの父――つまり一季のおじいさまがね、昔よく言っていたのよ。『あの子たちは仲がいい。いっそ将来は一緒にさせようか』って」
胸の奥が小さく跳ねる。夏祭りの花火の夜、子どもの頃のたわいもない会話。だけど大人たちは本気だったということ?
まさか、あの冗談みたいな会話に……。
「……それって、許嫁の話?」
そう尋ねると、綾子さんは小さく笑みを浮かべる。
「形式だけのことよ。けれどおじいさま方は本気だったの。うちには、いずれ一季が家を継ぐときに“伴侶を得て家庭を持つこと”を条件にした遺言が残っているの。彼が成人する前に亡くなってしまったから、遺産の一部は“結婚”が成立するまで保留のままになっているわ」
――結婚を条件にした遺産。
それはつまり、彼が結婚すれば相続が進むということ。だからあたしに求婚してきたの?
胸の奥がすっと冷たくなる。