隠れ許嫁は最終バスで求婚される
「……じゃあ、その……今回の結婚も、遺産が関係してるんですか?」
言ってから後悔する。
そんなつもりで彼が求婚したはずがないのに。
でも、口にしてしまった言葉はもう戻らない。
綾子さんは少し驚いたように目を瞬かせ、それから優しく首を振る。
「いいえ、そんなことはないわ。一季は昔からあなたを気にかけていたもの。……わたし、知ってるのよ。高校を卒業して上京するときも、最後の夜に“モネちゃんが泣いてる夢を見た”って言ってたわ」
その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。
だけど同時に、どこか居心地の悪いざわめきが残った。
もしも――最初から“決められていた許嫁”だったとしたら?
あのバスの中での求婚も、ただの“運命の既定路線”だったのだろうか。