隠れ許嫁は最終バスで求婚される
これは、遺産目当ての結婚じゃない ――side Kazuki
俺の母親とひとしきり会話したモネはそのまま黒戸の家に泊まることになった。正式な婚約者として、だ。
昼寝をしていた父親も夕食時には顔を出し、モネとの結婚を歓迎した後に母親と似たようなことをぼそぼそ言ってきた。
俺とモネは互いの祖父が口約束で決めただけの許嫁で、法的な効力は特にない。だが、遺産を手に入れるために結婚を決めたというのならそれはモネちゃんに失礼だ、と。
「そもそも……遺産を手に入れるためにもとっとと結婚しろって言ってきたのは親父なんだけどなぁ」
すっかり弱り切った父親に反発するのも大人げないと、俺は「彼女だから結婚を決めたんだよ」とだけ言って部屋に戻った。
黒戸本家と比べればちいさな家だが、それでも一般的な戸建てと比べればおおきな家である。客間も複数あるためモネひとりが泊まるくらい、何ら問題ない。
彼女は無人の実家に帰りたそうにしていたが、夕飯とお風呂を提案すれば素直に泊まることを受け入れてくれた。さすがに両親の目があるため寝室は別々である。