隠れ許嫁は最終バスで求婚される
久しぶりにゆっくりお風呂に入れると喜んでいた彼女もいまは湯舟につかって羽をのばしていることだろう。なんとも微笑ましい。
月曜日になったら同棲相手と暮らしていたアパートに荷物を取りに戻ると言っていたが、ひとりで大丈夫だろうか。本人いわく彼が仕事で不在のあいだにこっそり入って必要最低限のものを持ち出すだけとのことだからと言葉を濁していたが、シフト表を確認したら運転業務は午後からだったので俺もついていけそうである。
この土地で黒戸の名を出せばたいていの人間は恐れおののく。モネを困らせることはしたくないが、彼女が元カレに復縁を迫られるようなことがあってはたまらない。正式な顔合わせを行ったことで俺の両親とは公認になった。彼女の母親にも電話で確認済みだ。向こうは祖父同士の口約束を知らなかったらしいが、娘が決めたことならば、と凛とした声音で婚約を認めてくれた。モネからは「仕事が早い」と呆れられてしまったが、善は急げである。なるべく早く、彼女を名実ともに俺だけのモノにしたいのだ。もう、許嫁であることを隠す必要もない。
――俺ってこんなに独占欲強かったっけ?